プロローグ『やくそく』
――ひどく懐かしい夢を見た。
数多の星が光る夜空の下。二人の少年少女が並んで座っていた。
『ねぇ、シオン君は大きくなったら何になる?』
『僕? うーん、そうだなあ。お父さんやお母さんみたいな、すごい魔術師になりたいな!』
少女の問いに、シオンと呼ばれた少年は無邪気に答える。
『魔術師かー。シオン君らしいね』
『えへへ。そういう××ちゃんは、なにになりたいの?』
シオンは、隣にいる少女に問う。
少女は、夕日のような緋色の髪を指先でいじりながら、少し照れくさそうに答える。
『えっと。……絶対笑わないって約束できる?』
『うん、もちろんだよ!』
シオンは即答する。その行動に少女はすこし面食らったような様子だったが、やがて意を決したように、口を開いた。
『私はね……。剣士になりたいの』
『けん……し? 剣士って、あの剣士? 剣持って戦う?』
『うん、その剣士。やっぱり変だよね? 女の子が剣持って戦うなんてさ』
少女は苦笑しながら、自分の夢を否定する。自分とさして年齢は変わらないはずなのに、彼女の方が一歩大人に見える。そしてシオンは、そんな彼女が好きだった。
『そんなことないよ!』
だから、シオンは彼女の夢を否定したくなかった。
『おとぎ話や物語の中には、女の人の英雄がたくさんいるじゃん! ××ちゃんが剣士になっても、なにもおかしくないよ!』
それは、幼い頃のシオンが、精一杯言葉を選んで発した言葉。彼女の夢を肯定するために、紡いだ言葉。
――××に、夢を諦めて欲しくなかったから。
『……シオン君……』
小さく、彼女が自分の名を呼ぶ。シオンは立ち上がって、少女の前に立つ。
『だから、約束しよう!』
『約束……?』
『僕が魔術師で、××ちゃんが剣士になるの! そして、大きくなったら、一緒に冒険するの!』
少女は、その空のように蒼い両目を大きく見開いた。そして、その双眸が、シオンの方をまじまじと見つめる。
『……うん。いいね、それ』
『でしょ!』
シオンは笑う。少女も笑う。二人の笑い声が、遥か彼方まで広がる夜空へ、小さく響いた。
『はい』
少女が微笑みながら小指を差し出す。シオンはその意図を察し、自分も小指を出す。
『約束だよ』
『うん。どれだけ時間がかかっても、絶対約束を守るよ』
少女は微笑みながら、シオンと自身の小指を絡める。
『……ゆーびきりげーんまん……』
――これは、僕と彼女がひとつの約束を交わした時の記憶。
まだまだ始まったばかりなんで、頑張ります。誤字脱字、誤用等あるでしょうが、そこは暖かい目で見てくださると嬉しいです。コンセプトとしては、魔術バトル的な作品を目指してます。