演劇部2
演劇部のプレートがかかった教室の前で、二人は立ち止った。
咲弥の表情はさして変わらないが、雄大は露骨に嫌な顔になっている。
「やっぱ逃げよ?」
鼻にしわを寄せ、後ずさる雄大の腕を、咲弥はがっしりと掴んだ。
「逃げても黒澤くんに捕まっちゃうよ。ほら大丈夫。一緒に行ってあげるから」
学園の予備知識の全くない咲弥は、雄大のように演劇部に嫌悪感は抱いていない。
どちらかというと好奇心の方が勝っている。
学園に来るまでの咲弥は、やってみたくてもやれない環境に置かれていた。
自分が参加すると必ずパニックが巻き起こるのを、咲弥は嫌というほど知っていたからだ。
だからどれだけ興味を持つ出来事に出会っても、じっと遠巻きに見ていることしかできなかった。
先日の食堂事件までは、そう思っていた咲弥なのだが。
あの事件以降、雄大たちのおかげもあって、過激な行動に出る女の子たちはほとんどいなくなった。
もちろん、咲弥が演劇部に足を運んだということで、演劇部に迷惑をかける事態になるかも知れない。
でも雄大もいることだし、見学くらいなら構わないだろう。
演劇部って、何をするところなんだろう。
その答えを自分の目で見て、探すことが出来る。
そう考えるだけで、咲弥はわくわくする自分を抑えることが出来なかった。
「わかった。じゃあ開けるぞ」
とうとう抵抗を諦めた雄大が、教室の扉をがらりと勢いよく開けた。
「!!!!!!!!」
雄大は開けた扉を光速で閉めた。
「……見た?」
「……見た」
「……ウサギが、いたよね」
「……女王様も、いた」
「……どうする?」
「……やっぱ逃げよう」
二人がいま見たものについて語りあっていると、雄大が閉めた扉がゆっくりと開いた。
恐る恐るそちらを見る二人の動作は奇妙にシンクロしている。
二人の視線の先で、豪奢なドレスに身を包み、煌びやかに着飾った女王様が、妖艶な笑みを浮かべていた。
「ようこそ。お茶会へ」
「だから俺は来たくないって言ったじゃん~~~!」
「まあ可愛らしいこと」
叫びながら逃げようとした雄大の腕を華麗な仕草で確保した女王様の真っ赤なくちびるが、まるで闇夜に光る三日月のように、くっきりと綺麗な弧を描いた。
引きずり込まれるように二人が入った教室の真ん中には、細長いテーブルがあった。
綺麗なクロスが敷かれたテーブルの上にはお茶のセットとタワー状に盛られたお菓子が乗っている。
それだけ見れば優雅なお茶会の一幕だ。
けれどテーブルに着いている者といえば。
ウサギの着ぐるみを着た女の子。
派手な装飾を施したシルクハットを被る女の子。
猫耳を着けた女の子。
金髪のかつらに水色のワンピースドレスを着た女の子。
などなど。普通の恰好をしている者はいなかったのだ。
「新入部員の方たちね。どうぞ。お座りになって」
二人を部屋に招き入れた女王様は空いている席を示した。
恐る恐る二人は腰かける。
近くで見れば見るほど、彼女たちは奇妙で異様な雰囲気だ。
「まずは自己紹介からお願いしようかしら」
女王様が手ずからお茶をカップに注ぎながらそう言った。
「お、俺は一年の浅来雄大です」
「同じく一年の山田咲弥です。今日は浅木くんの付き添いで来ました」
「まあ。そうなの」
二人が自己紹介すると、女王様の真っ赤な口紅を引いた唇がまたしても大きく弧を描いた。
まるで舌舐めずりするようなその笑みに、雄大は本気で泣きそうになった。




