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咲弥と光晴1

 器用に咲弥を抱いたまま部屋のロックを解除した光晴は、共用スペースのソファーに咲弥をそっと下ろした。

 まるで本物の女の子を扱うような光晴に、咲弥は落ち着かなく視線を彷徨わせる。

 咲弥の心中など全く気にしていない光晴は、探るようにそっと彼女の髪に手を差し入れた。

 ざわりとした感覚と共に、じんと痛みが走って、咲弥はぴくりと体を固くする。


「やべ。たんこぶ出来てるな。ちょっと待ってろ」


 そう言ってキッチンの方へ行った光晴が、濡れタオルを手にすぐ戻ってくる。

 

「しばらくこれ当ててな」


 保冷剤を包んだ少し固いタオルが頭に当てられ、痛みに顔をしかめる咲弥の顔を、ソファーの横に膝をついた光晴が覗きこんだ。


「で、なんでこんなコスプレしようと思ったの?」


 コスプレって……。

 そんな言い方しなくても、と咲弥の眉が寄る。

 

「コスプレじゃねーし」


 若干傷ついて、まるで拗ねるような口調になってしまうのを止められない。

 別に楽しんでこんな格好をした訳じゃないのに。

 少しでも状況が改善すればと思って、頑張って着てみただけなのに。

 

「スカート履いたら、普通の女子になれると思ったの?」


 光晴の静かな問いに、咲弥は小さくつぶやいた。


「……もしかしたら、男子の格好なんかしてるから、みんな珍しがって騒いでるだけなのかも知れないなって、ちょっと思った」


 最後には消えてしまいそうな小さな咲弥のつぶやきに、光晴が微かなため息をつく。

 そのため息は思いのほか咲弥の胸を大きくえぐった。

 今なら咲弥にも軽はずみな行動だったと理解出来る。

 夕方の時間をまったり過ごしていた光晴たちにとっては、本当に迷惑な話で。

 今まだ女の子たちの暴走を止めてくれている雄大たちにも、本当に申し訳ないと思う。

 けれどまさかあんな大騒動になるなんて、想像も出来なかったのだ。

 重く苦しい胸の痛みにじっと耐える咲弥の耳に、光晴の無情な声が響く。

 

「ちがうよ。格好なんか関係ない」

「!」

 

 光晴の言葉に咲弥は息を呑む。

 そう。格好なんか関係ない。

 いつもそうなのだ。

 つまりそれは咲弥自身に問題があるということで。

 

「ごめん。迷惑かけた」


 突きつけられた厳しい現実に、震えそうになる声を無理矢理絞り出す。

 だから高校に行くのも断念したはずなのに。

 もう誰にも迷惑かけたくないって、あれほど願ったくせに。

 新しい環境に、何の偏見もなく受け入れてくれた雄大たちに、気持ちが浮ついていたとしか言いようがない。

 のどの奥がかっと熱くなって、じわりと浮かびそうになる涙を、咲弥は息を詰めてこらえた。

 光晴の前で泣くわけにはいかない。

 ここで泣いてしまったら、まるで光晴を責めるみたいだ。

 悪いのは巻き込んだ自分で、巻き込まれた光晴たちは何も悪くない。

 誰よりも光晴の言葉が正しいことを、咲弥は知っているのだから。


 咲弥は光晴の視線から逃げるように、顔を逸らせた。






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