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それを人は女難という3

 咲弥が男女共有スペースである食堂に入っていくと、思った通り、いつもの顔触れが一つのテーブルを陣取っていた。

 夕食の始まるのは五時頃からなのだが、始終お腹を空かせた彼らは時間前に集まって購買で買ってきたお菓子をつまんだり、ゲームをしたりして時間を潰しているのだ。

 今もトランプに興じている彼らは、咲弥が近づいてきたのに気付く様子はない。


「雄大!」


 咲弥はこちらに背中を向けて座っている雄大に声をかけた。

 みんな今の咲弥の格好に、きっと嘘偽りのない意見を言ってくれるはず。

 でも一番率直な意見を言ってくれるのは雄大のはずだ。


「あぁ?」


 トランプを手にした雄大がめんどくさそうに咲弥の方を振り向いた。

 その目がまん丸に見開かれる。

 雄大の動きにつられるように咲弥の方を振り向いた他の男子たちも、同じように目を見開いた。


「さ、さくや!?」


 そんなに驚かれると困るんだけど。

 そう思った咲弥は違和感を感じる。

 彼らの視線は、自分を通り越している?


「!!?」


 その視線を追って、自分の後ろを振り返った咲弥は、言葉を失った。


 携帯を手に持った女子生徒の集団が口々に何か叫びながら、咲弥に迫ってきた。

 それは、さながら押し寄せる津波のようで。


 咲弥の頭は真っ白になった。

 なにこれなんで。

 押し寄せる女の子たちの姿が、まるでスローモーションのように咲弥の瞳に映る。


「咲弥さまっ。一緒に写真をっ」

「咲弥さまっ。わたくしもっ」

「いえ私とっ」

「お姉さまとお呼びしてもいいですかっ」


 彼女たちが口々に叫んでいる。

 けれども咲弥の耳に届くそれは、全く意味を成さないただの音の集まりだった。






「雄大」


 聞こえたのは、いつもの咲弥の声だった。

 だが彼らが振り向いた先にいたのは、なぜかスカートをはいた咲弥だった。

 更にその背後には怒涛の勢いで押し寄せる女の子の塊り。

 テーブルにいた全員がその勢いに呑まれ、一瞬、完全に、固まった。


「咲弥っ! こっちだ!」


 一番早く我に返ったのは、光晴だった。

 彼は背後を振り向いたまま、固まっていた咲弥の腰をひっつかんで、男子寮へと続くドアへと猛ダッシュしたのだ。


「あとは頼む!」


 すれ違いざまに叫んだ光晴に、雄大たちもやっと我に返った。

 押し寄せる女子生徒たちを、雄大は腹に力を入れて睨みつける。


「ここはぜってえ通さねえっ! お前らいい加減にしろってんだっ!! 咲弥のことが好きなら、咲弥の気持ちをちょっとでも考えろよっ!」


 光晴は背後で、雄大が怒りの感情を爆発させるのを感じていた。


  

 光晴に抱きかかえられたまま、男子寮の中に転がり込んだ咲弥は、その勢いのまま廊下の壁に頭をぶつけた。

 ごんっという派手な音が鳴り響き、咲弥の目の裏に鮮やかな火花が散る。


「ってえ!」

「っ! 悪ぃ。大丈夫か?」


 慌ててそう尋ねる光晴に、涙目になりながらも何とか咲弥は頷いた。

 

「ちょっと我慢な。ここはまだ危険だから」

「え。わっ」


 光晴がそう言った途端、ふわりと体が浮くのを感じて、反射的に咲弥は光晴の肩にしがみついた。

 慌てる咲弥をお姫様だっこして、光晴は男子寮の廊下を足早に歩き出した。



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