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交流会その後3

 わかってたんだけどな。


 雄大は窓から離れて廊下を歩きだした。

 相手は学園屈指の名家のお嬢様。

 そんなお嬢様の目に留まるのは、学園でも上位の男だと。

 

 恋なんか、するつもりはなかった。

 自分の実力は言われるまでもなく分かっている。

 力が全てのこの学園で、自分のランクが平均にも及ばないことを、雄大は身にしみて分かっていた。

 ずいぶん昔のことだけど、努力をしたこともある。

 けれど生まれ持った力が全てを左右するこの世界で、雄大の努力が実ることはなかった。

 そして雄大はいつしか努力とともに、いずれ入学してくる花嫁候補たちとの出会いにも、期待することをやめてしまったのだ。

 その方が気が楽だったから。


 さらにその気持ちに追い打ちをかけたのが、外部入学のお嬢様たちだった。

 恋なんかと思いながらも、周りの男子たちと同様、雄大も初めての男女共学に淡い憧れのようなものを抱いていた。

 入学式当日、遠目に見る彼女たちは一様に見目麗しく可憐で可愛らしく、恋なんてと思っていた雄大も気持ちが高揚するのを抑えられずにいた。

 その高まる気持ちを一気に奈落に突き落としたのは、彼女たちから向けられた冷たい視線だった。

 愛想よく向けられた笑顔の中で、彼女たちは確かに雄大を冷静に値踏みしていた。

 そして彼女たちの笑顔が、雄大に向けられることは二度となかった。

 その恐ろしいほどの打算に、雄大は大いに落胆し幻滅した。



  


 それなのに。

 彼女も同じ外部入学生なのに。

 彼女を初めて見た時、世界が変わった気がした。

 同時に、恋とはするものではなく、墜ちるものなのだと、思い知らされた。

 

 気がつけば彼女の声を耳で追っている。

 彼女の気配を感じようと、必死に感覚を研ぎ澄ましている自分がいた。

 

 バカバカしい。

 彼女はいずれ人のものになっていく存在だ。

 この学園で、彼女が誰のものにもならずに過ごすことなど、絶対にあり得ない。

 現に、彼女には学園でトップを張る男のマーキングがつけられている。

 二人の仲がどれほどのものかは分からなくても、彼女がいずれ奴か、奴を上回る力の持ち主のものになることは、確実だった。


 あいつとおんなじものを欲しがるなんて、ほんと俺ってバカだよね。


 木の陰に潜む彼女の姿を見つけたのは偶然だった。

 その視線の先にあるのは、優雅に長い足を組み、夢見るような目の女の子たちに囲まれている彼の姿。

 敵うはずもない、雄大が欲しいものを全て持っている彼の姿だった。


  


「あ~あ。サッカー行っとけばよかったな」


 頭の後ろで手を組んで、誰もいない廊下に向かってぼやく。

 この恋を忘れるまで、どのくらいかかるのかな。

 忘れることなんてできないという思いと、忘れたいと願う思いが心の中で激しくぶつかり合う。

 それでもいつかきっと。


「恋なんてつまんねーな」


 明日はサッカーしよう。

 ぐずぐず考えるなんて俺らしくない。

 楽しいことしてたら、きっと恋なんて忘れてしまえるはずだ。

 馬鹿笑いしている仲間の顔を思い浮かべたら、少しだけ元気がでたような気がした。


 頭の後ろで組んでいた手をほどいて、大きくひとつ伸びをして。

 雄大は誰もいない廊下を全力で駆け出した。



 



 

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