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交流会その後2

「よっしゃー! サッカーしようぜっ」


 食堂からの帰り道、咲弥の隣を歩いていた孝明が奇声を上げた。


「るせーなー。なにテンション上げてんだよ」


 そう言ったのは光晴だ。

 

「なに言ってんだよ。今やらなきゃいつやるの!? こんないい天気が続くの今だけだよ? もうすぐ雨ばっかの日が続いて、それが終わると炎天だよ? やらなきゃ! サッカー!」

「はあ。サッカー馬鹿」

「うるせー。雄大も行くだろ?」


 サッカー馬鹿と言われても全く気にする様子もなく、孝明が雄大に声をかけた。


「あ? なに?」


 集団の中、珍しく端っこを歩いていた雄大は、話を聞いていなかったのか聞き返す。


「なにテンション下がってんだよ? サッカーだよサッカー。行くでしょ?」

「あー。俺今日はパス」


 雄大の答えに、孝明は目を見張った。


「うそだろ! 信じらんねー返事! お前からサッカー取ったら何が残るって言うの!?」

「はあ?」


 孝明の言葉に、珍しく雄大が不機嫌な声を上げ、一瞬不穏な空気が流れる。

 それを破るように、光晴がぐいっと孝明の肩に手を回した。


「孝明、お前言いすぎ。雄大にだって都合があるだろ。ほら。俺たちが付き合ってやるから行こうぜ」

「お、おう?」

「咲弥も付き合えよ」

「ん? 別にいいけど」

「じゃあな雄大」

「あ、うん。付き合えなくて悪い」


 雄大がほんの少し気まずそうに謝ると、孝明も同じように謝った。


「いや。俺こそ悪い。んじゃあとでな」

「おう」


 孝明たちに手を上げて、雄大は一人教室の方に戻っていく。

 その背中が、なんとなくいつもの雄大とちがうような気がして。

 咲弥はその後ろ姿を見えなくなるまでずっと、見送った。






   

  

「あ、雄大?」


 サッカーを終え、教室に戻る途中。

 ふと見上げた校舎の三階の窓に、咲弥は雄大の姿を見つけた。

 何を見ているんだろう。

 窓枠に両腕をついて、物憂げに下を見ている雄大の視線を追う。

 あれ? あれって。

 雄大の視線の先にいたのは、木の影に隠れるように立っている少女の姿だった。


 ……衿香?


 間違いない。

 こちらに背を向けているけれど、そのほっそりした後ろ姿に綺麗に巻かれた髪。

 間違いなく神田衿香だ。

 でも彼女はあんなところで何してるんだろう。

 

「どした? 咲弥」


 突然立ち止った咲弥に、光晴が声をかけた。


「ああ、姫ね」


 咲弥が返事をする前に、その視線の先を追った光晴が納得したような声を出す。


「何してるのかな」


 咲弥が問うと、光晴は彼女のいる木の向こう側を指さした。


「あっちの方に生徒会専用の中庭があるんだよね」

「生徒会専用?」

「そう。でさ、昼休みには生徒会と語らう会が開催されるんだ」

「は? かたらう?」

「まあ簡単に言えば、生徒会の方々と主にその親衛隊の子たちがお話をする場所。親衛隊は知ってる?」

「名前だけは」


 同室のありさも、確か幸田会長の親衛隊に入っていたはずだ。


「そう。親衛隊の中には熱狂的な子もいるから、たまに優しい言葉をかけて、暴走しないようにするのが目的なんだって。モテる男も辛いよな」

「ふうん。そうなんだ」


 で? と咲弥は小首を傾げて光晴を促す。

 親衛隊と衿香がどう繋がっていくというのか、咲弥には分からない。

 咲弥の視線に、光晴は顔を歪め、頭をぼりぼりと掻いた。


「あーもう。そこは察しろよ。てかお前、そういうとこは激鈍だったっけか」

「ゲキニブ?」 


 またしても分からないと首を傾げる咲弥に、光晴は重ねてため息をついた。


「だからさ、姫は親衛隊には入ってないから、あの場所には行けない。けど危険を冒してまで見たい何かがあそこにあるということだ」

「危険を?」

「そう。ここまで言っても分かんないか。しゃーねーな。あくまで噂だけどな、姫は幸田会長を狙っているらしい」

「え……」

「姫は今年の外部入学生の中でも、トップクラスのお嬢様だ。会長は言うまでもないけど、この学園の頂点に立っている。姫にとっても会長にとっても、互いに不足はない相手だしな」

「会長と衿香が……」


 なんとなく、腑に落ちないような気もするが。

 咲弥は、口元に手を置いて考える。

 え? でもそれを見ていた雄大は?

 目を瞬かせて光晴を見上げると、彼は苦い笑いを浮かべていた。


「あ~。それは雄大に直接言ってやるなよ。男って意外に繊細だから」


 その苦い口調に、咲弥は悟ってしまった。


「まあ雄大も高嶺の花だってことは分かってるだろうし」


 そう言って歩き出す光晴の背中を、数歩遅れて咲弥も追う。


「初恋ってやつは実らないって言うしね」


 初恋、だったのか。

 ここ数日、雄大が元気を失くしているように思えたのは、咲弥の気のせいではなかったのか。

 きゅっとくちびるを結んで遠くを見つめる雄大の横顔が胸をよぎる。

 もう一度見上げた校舎の窓に、雄大の姿はなかった。



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