表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/31

学園

 数日後、咲弥は身の回りのものだけを持って家を出た。

 バスに乗り、指定された駅に行くと、黒塗りの高級車が咲弥を待っていた。

 言われるまま、車に乗り込み、どのくらい走ったのだろうか。


「こちらが学園です」


 すっかり気持ちよく眠っていた咲弥は、運転手の感情のない声に導かれて目を覚ました。


「どうぞ」


 半分寝ぼけた状態で車を降りる。


「あちらが寮になります。では私はここで」


 一礼して車に戻っていく運転手を見送って、咲弥は運転手が示した方向に向き直った。

 咲弥の身長の倍くらいあろうかという門が、右と左、見えなくなるまでずっと続いている。

 これはまるで檻だな。

 初老の、眼光だけがやけに鋭いえびす顔の守衛の前を通り過ぎ、咲弥は門の中に足を踏み入れた。

 門の中は桜の園だった。

 枝には満開の桜。

 それがはらはらと惜しげもなく盛大に花弁を散らす様は、見る者を圧倒するほどだ。

 その桜の下に、人目を引く美男美女のカップルが立っていた。

 頬を桜色に染めて戸惑う美少女の手を取り、優雅に微笑みかける美少年。

 背景の桜と相まって、まるで美術館の中に飾られている絵画のような光景だ。

 とんでもないとこだな。

 見ている光景がとても現実のものとは思えない。

 頭をひと振りして、咲弥は寮に向かって歩き出した。


 寮はまるで高級ホテルのように洗練された建物だった。

 磨き上げられたぴかぴかのフロアーは、土足で入るのをためらうほど美しい。

 正面に設えられたカウンターの女性が、にっこり微笑むのに促されて、咲弥はカウンターに向かった。

 身なりが男子なのでひと悶着あるかな、と懸念していた咲弥だが、彼女は咲弥の来訪を知っていたようで、すぐにルームキーを取り出し、一通りの寮の説明をしてくれた。

 この寮は広々とした天井の高いロビーは男女共有のスペースとし、ここから左右対象に男子寮女子寮と分かれている。

 食事をするのは男女共有の食堂で。

 ただし、体調に問題あるときなどは、食事を各部屋に運んでもらうこともできる。

 もちろん、男子寮に女子が入ることも、女子寮に男子が入ることも厳禁だ。

 一通りの説明を受け、咲弥はルームキーを受け取り、自室へと向かった。


 外観もそうだけど、内装もホテルだな。

 廊下に敷き詰められた、柔らかいカーペットの上を歩きながら、咲弥はまだ見ぬルームメイトに思いを馳せる。

 この設備を当然とする人間が集まっているのだとしたら、きっとルームメイトの価値観は随分咲弥とちがっているのだろう。

 どうしよう。男と間違われて悲鳴でもあげられたら。

 漠然とした不安を抱きながら、咲弥はルームキーを差し込んだ。


  

 

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ