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打ち上げ2

 どういうわけか一曲歌ったあと歌うのを禁止されてしまった咲弥だったが、他の男子の歌をタンバリン片手に聞いているだけでも充分楽しめた。

 咲弥のクラスの男子は総じて芸達者で、ダンス付きで熱唱する者、ラップやボイパを披露する者、果ては美しいハモリで感動の嵐を誘う者と、見ているだけで飽きなかった。





「あの、学園の方ですよね?」


 咲弥が二人組の女の子に声をかけられたのは、トイレからの帰り道だった。

 振り向くと小柄な女の子二人組は手を取り合い、きゃっと小さく叫んだ。


「うん。そうだけど」


 咲弥が答えると二人は興奮した様子で小さく飛び跳ねた。


「やっぱり学園はイケメンぞろいだっていうの、噂じゃなかったんだ~!」

「すごーい! アイドルより全然いけてる!」


 口々にそう言って、彼女たちは咲弥のもとに駆け寄った。


「あの、私たち、向こうの部屋にいるんですけど、一緒に歌いませんか?」

「良かったら連絡先交換してください」

「いやその前に一緒に写真……」

「握手……」


 盛り上がる二人は勢いのまま、幾分引き気味の咲弥の手を両側からぐいぐい引っ張った。


「とにかく行きましょう!!」

「え、ちょっと、」


 咲弥が彼女たちを引き離すのは簡単だ。

 だがいかにも華奢な二人を前に、一瞬咲弥は躊躇する。

 咲弥が躊躇している間に、クラスメイトのいる部屋がどんどん遠ざかっていってしまう。 


「なにやってんだよ。咲弥」


 ぶっきらぼうな声に三人の動きがぴたりと止まった。

 咲弥が振り返るとポケットに両手を突っ込んだ雄大が、不機嫌丸出しで廊下の曲がり角に立っていた。


「雄大」


 仏頂面のまま、ずかずかと近づいてきた雄大が、咲弥の肩に腕を回しぐいっと引き寄せる。

 突然の雄大の登場に驚いていた二人組の手は、あっさりと咲弥から離れていった。


「悪いけど、こいつは行かねえから」


 ぽかんと二人揃って口を開けたままの女の子たちを放置して、雄大は咲弥の肩に腕を回したまま歩き出した。


「なんで振り払わねえんだよ。あんなの相手にしてたらキリないだろ」


 いつもより近くに聞こえる雄大の声に、ちらりと視線を送るが、雄大はまっすぐ正面を睨んだままだ。

 声は怒っているのに、肩に回された腕は温かい。

 人って、こんなにあったかいんだな。

 見当違いのことをぼんやり考える咲弥を、雄大がじろりと睨みつける。


「聞いてる? お前の力だったら簡単だろ?」

「あ~。女の子相手だと力加減がわかんなくって」


 眉を下げ、情けなく笑う咲弥に、雄大はますます苦虫をかみつぶしたような顔になる。


「どんだけジェントルマンなんだよ」


 不機嫌な態度をとり続ける雄大だが、それでも彼は困っている咲弥を助けてくれた。

 それが咲弥の心を温める。

 と同時に助けが必要だった雄大を見捨てた、自分の打算や狭量さが恥ずかしくてたまらなくなる。


「ほんとに助かった。ありがとう。雄大」

「……別に、たまたま通りかかっただけだし」

「女の子ってさ、時々強いのか弱いのかわかんないんだよね」

「……俺にはわかりそうにない悩みだな」

「ほんと助かったからさ、演劇部、一緒に行くよ」

「え!!!?」


 廊下の真ん中で雄大は立ち止った。

 目をまん丸にして咲弥を見つめている。


「なんで? だってお前、逃げ切ったじゃん」

「俺、反省してる。雄大が一緒に行こうって言ったのに、一人で行くって言いはって。自分勝手だよな」

「あ……、いやそれは、だって、あの時は仕方なかったし。山田だって一応女子だし。俺っていうお荷物増えたら、大変だっただろうし」

「だけど雄大は俺が強いって知らなかったんだろ? 俺が一人だと危ないと思って、一緒に行こうって誘ってくれたんだろう?」

「……それは、そんな感じだったかも……」

「俺、ずっと一人でやってきたから、そういうのよく分かんなくて。でもさっき雄大に助けてもらって、すごく嬉しかった。だから今度はちゃんと雄大を助けたい」

「……お前、」


 きらきらした目でまっすぐ自分を見つめる咲弥がまぶしくて、雄大は目を細めた。

 雄大はそれほど深く考えて咲弥を誘ったわけではない。

 いつものくせのようなもので、一人でいる奴がいれば、なんとなく声をかけるのが雄大なのだ。

 だから咲弥にそんなに感謝されるようなことはしていないと思う。

 思うのだが。


「やっぱお前いい奴だな!」


 雄大にとって、良心の呵責よりも、女の園である演劇部に一人で行かなくてもいいということの方が大事だった。

 今までの不機嫌が嘘のように満面の笑みを浮かべる雄大に、咲弥も王子様スマイルを全開にする。


「雄大の方がいい奴だよ!」



 二人の褒め合いは、なかなか帰ってこないことに気付いた光晴に発見されるまで延々と続いたのだった。




 

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