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打ち上げ1

「お前ってすごいのな~」


 交流会の打ち上げで訪れたカラオケ店で、咲弥の右隣に座った光晴が打ち解けた様子で話しかけてきた。鬼ごっこの途中、鬼に囲まれて絶体絶命のところを咲弥が助けてやったら、妙に懐かれたのだ。

 ちなみに女子の参加は咲弥だけだ。

 彼らが他の女子に声をかけなかったのか、かけたけれど誰も参加しなかったのか、咲弥は知らない。

 気が付いた時には光晴と雄大に両腕を取られていて、カラオケ店まで連行されたのだ。


「途中まで単独だったから、別に大したことないよ」

「まあハンデはでかかったけど、でもお前だって姫を一人守りきったんだろ?」

「ああまあ、成り行きでね」

「なんだよ。俺とは一緒に行かねえって言ったくせに」


 咲弥の左隣に座った雄大は、ずっとご機嫌斜めだ。

 なのにそっぽを向きながらも、なぜか雄大は咲弥の隣を陣取り誰にも譲ろうとはしない。


「すねんなよ。俺だってお前らみたいなのは連れて行きたくなかったんだぜ? しかも咲弥は外部入学なんだから、勝手がわからない場所でリスクは背負えないだろ?」


 咲弥越しに宥める光晴に、雄大が吼える。


「だって、俺、捕まったの演劇部だぜ!? 光晴は恭一郎だけ連れてさっさと逃げるし、俺、絶対サッカー部に入りたかったのに! しかも光晴たちはそのあとサッカー部に捕まったって。……なんで俺ひとり演劇部に入んなきゃなんないの!? ひでーよ」

「演劇?」


 なぜか咲弥の頭にお姫様の恰好をした雄大の姿が浮かぶ。

 妙に似合うその姿に、思わず笑みがこぼれる。


「あ~笑ったな~! くそぅ。ぜってぇ行かねえからな俺!」

「なに言ってるんだよ。二週間の仮入部は絶対だからな。実行委員の俺と光晴に迷惑かけるなよ」


 こぶしを握りしめぷるぷる震える雄大に、その斜め向こうの席から交流会の実行委員をした黒澤が冷静に突っ込む。


「じゃあ黒澤も一緒についてきてよ!」


 そう叫ぶ雄大に黒澤はにっこりほほ笑む。


「必ず部室まで送り届けてやるよ」

「うわ~! そんな意味じゃないのに!」


 がっくりうなだれる雄大を放置して、クラスメイトたちは次々に選曲をしていく。


「咲弥はなに歌うの?」

「なにって」

「あれ? もしかして、カラオケ来たことないとか?」


 目を丸くする光晴に咲弥は素直に頷く。

 山間の小さな村で育った咲弥だが、少し離れた町まで出かければ、遊ぶところはあった。

 実際、何度か友達同士で遊びに行ったこともあるのだが、なぜか毎回、町をたむろする他校の男子生徒に絡まれ、カラオケどころかゲームセンターに入ることも出来なかった。

 

「何度か行こうとしたんだけど。なかなか店までたどり着けなくてね」


 咲弥がそう言うと、光晴は不思議そうに首を傾げた。


「どういう状況でそうなるんだ?」


 光晴の質問に咲弥は頬に人差し指を当て、当時のことを思い出しながら答えた。


「えーとね、俺の家はすごい田舎だったから、まずバスで町まで行くだろ? でしばらく歩いてると、なんでか女の子たちに囲まれるんだよね」

「……囲まれる?」

「うん。で一緒にどこか行こうとか誘われるわけ。今日は友達同士で遊びに来たからって断るんだけど、みんな積極的で、なかなか目的地に着けないんだよね」

「あー……」

「それでもなんとか目的の店の前に来れたかと思うと、必ず地元のやんちゃな男子たちが現れるんだよね」

「……」

「毎回どういう訳か小競り合いになっちゃって。入ったこともないのに、店から出入り禁止を言い渡されるって、どう思う?」

「ちなみにお前の私服って、やっぱ男の恰好だったりした?」

「え? うん。そうだけど」


 いつもこんな感じかな、と笑う咲弥に、光晴はなるほど、と納得する。

 どこまで咲弥自身が自覚しているのか疑問だが、彼女の外見は綺麗系男子である。

 すっきりした眉にすっきり通った鼻筋。全体的に凛とした顔だちなのだが、ほんの少し下がった目尻が柔らかい印象を与える。

 中学生の時の咲弥がどんなだったのかは知らないが、光晴の想像上の咲弥が田舎の町に突然現れたら、それは注目を浴びるだろうと断言できる。

 テレビで見るアイドル並、いやそれ以上の美少年に、田舎町の少女たちが大騒ぎする光景が見えるような気がした。

 そしてそれを面白くないと感じる、田舎町の少年たちの姿も。


「今日は思いっきり歌えよ」


 なぜ自分が絡まれたのか、よくわかっていない様子の咲弥に人生初のカラオケを勧め、光晴が後悔するのは数分先のことである。

 気持ちよく歌い終わったはずの咲弥は、なぜか涙目で耳を押さえる男子たちに声をそろえて「山田は歌うの禁止」と言い渡され、首をかしげた。

 ふと隣を見ると、口元を引きつらせた雄大がぽつりとつぶやいた。


「お前、そのビジュアルでその歌って……。不憫すぎる」



  

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