交流会6
異変を感じたのは、ようやくありさの激情も治まりかけたころだった。
肌をぴりぴりと刺す空気に、咲弥は囲まれていることを察知する。
その気配から鬼の位置を掴むと、咲弥は腕の中のありさの耳に口を寄せた。
「鬼がいる。走れる?」
咲弥の問いに一瞬体を固くしたありさが、小さくうなずいた。
鬼は全部で五人いる。
逃げる、というよりは、ありさを背に戦いやすい場所を求めて、咲弥は駈け出した。
木陰から開けた場所に飛び出して、校舎を背に鬼を迎え撃つ態勢を整える。
呼吸を整える間もなく、茂みをかき分けて現れたのは、全員ガタイのいい男子五人。
角刈りの短い頭髪と隙のない構え方に、全員柔道経験者だと当たりをつける。
「こんな細っこいのに柔道できるか?」
「試合は無理でもマネージャーの仕事くらいはできるだろ」
「俺は後ろの女の子にお世話してもらいたいけどな」
じわじわと包囲網を狭める男子たちをじっと見返す咲弥の後ろで、ありさは震えを抑えることができなかった。
この絶体絶命の状況に、一体咲弥はどうするつもりなんだろう。
ありさを庇うように立つすらりとした背中の向こうに見えるのは、全員咲弥の倍以上はあるだろう、あまりにも体格差のある五人の男子生徒。
助けを求めようにも、ありさの膝はがくがく震えて走れそうにもない。
黙って五人を見ていた咲弥が、涼しい顔でありさを振り返った。
「柔道部に入ってほしいらしいけど、どうする?捕まる?」
なんでもないことのように言う咲弥に、ありさは激しく頭を横に振った。
「そっか。じゃ逃げるか」
あっさりそう言い、咲弥はくるりと柔道部員たちに向き直った。
「悪いけど、柔道部は嫌だって。先輩たち道開けてくれない?」
何の感情も込めずにそう言う咲弥に、柔道部員たちの顔に怒気が走る。
「生意気な奴だな。根性叩き直してやる」
そう叫びつつ咲弥のジャージの衿を掴みに来た大男は、一瞬のうちに地面に転がっていた。
その場にいる全員が、何が起こったのか分からなかった。
ただ咲弥だけが涼しい顔をして、ジャージの裾を直していた。
「遅いよ。ほら、次」
くいくい、と手のひらを上に数回指を曲げ挑発する咲弥に、柔道部員たちの顔色が変わった。
一斉に飛び掛かってくるその迫力に、壁際のありさが思わず目を瞑る。
どすどたどんがん。
痛そうな音とともに聞こえるのは「ぐっ」や「ぎゃ」という声にならない声。
「お待たせ。行こうか」
咲弥の声に恐る恐る目を開けたありさは、目の前の光景に茫然とした。
醜態をさらして地面に体を投げ出す五人の大男たち。
全員気を失っているようだ。
対する咲弥は髪一筋すら乱していない。
「あなた、一体……」
どうやって、と言おうとしたありさに向ける微笑みは、初めて会った時と同じ、爽やかな王子様のようだ。
「早く離れた方が良さそうだ」
そう言って周囲に向ける視線は、ありさに向けるものとは比べ物にならないくらい鋭い。
ありさは素直に頷き、大人しく咲弥に手を引かれ歩き出した。




