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交流会4

 咲弥が校舎の裏手に入っていくと、木の下に数人の女子生徒が集まっているのが見えた。

 中心にいるのは、さっき体育館で見た神田衿香という美少女だ。

 彼女たちは何やら熱心に口論していたが、やがて一人二人とその場を離れ、最後に衿香だけが残った。

 何をする気だろう。

 おもむろに木に両手をかけた衿香を、少し離れた場所で観察する。

 真剣な表情で木に向き合う衿香は咲弥の存在に気づく様子はない。 

 衿香の小さな手が、木の枝を掴んだ。木の幹に足をかけ、もう片方の手を上の方の枝に伸ばす。

 ずるずるずる。

 

「……?」


 綺麗な巻き毛をこてんと傾けて両手を見つめる衿香。

 ……もしかして木に登りたいんだろうか。

 意を決したようにもう一度枝を掴む衿香を見て、咲弥は確信する。

 ……無理だろ。

 どう考えても彼女が木登りが得意なようには見えない。


「登りたいの?」


 木の幹と格闘している衿香に近づき、そっと声をかけてみる。

 はっと振り向いた衿香は、ぱっと顔を赤らめた。

 ……可愛い。

 

「えっと、あの、わたくし、木登りは初めてで、あの、もっと簡単に登れるものだと……」


 見ると衿香の小さな手の平は真っ赤になっている。

 木登りどころか、スポーツすらしたことがないような白いすべすべの手だ。


「どうしても登りたい?」


 衿香の必死な様子を思い出して、咲弥は尋ねてみる。

 一瞬大きな目を見開いて咲弥を見つめた彼女が、大きく首を縦に振る。


「じゃつかまって」

「え?」


 衿香の腰に手を回そうと腰をかがめると、彼女が驚いたように体をすくませるのが分かった。


「ああ、大丈夫。こう見えても女だから」

「え?あの、ほんとに?」


 まだ信じきれないのか戸惑う衿香に、安心するようにっこりと笑いかけ、そっと抱き上げる。

 不安定な体勢に、衿香の細い腕が自然に咲弥の首に回った。

 想像よりもはるかに軽い体を持ち上げるのは簡単なことだった。


「ほら、その枝に手をかけて。足はそっち」


 咲弥がそう指示を出すと、本来の目的を思い出したのか、衿香は積極的に木に登り始めた。

 木は適度に枝が張り、葉が生い茂り、上まで上がってしまえば身を隠すのにうってつけの木だ。

 衿香はしっかりと太い枝に身を落ち着けたようだ。


「じゃ、がんばって隠れてね。下りる時には誰かに声をかけるんだよ?」


 咲弥がそう声をかけると、葉の隙間から顔をのぞかせた衿香が礼を言った。


「あの、ありがとうございました。わたくしは1Aの神田衿香と申します。あなたは?」

「俺は1Bの山田咲弥。落ちないように気をつけて」

「またお礼に後日伺います。あなたもお気をつけて」


 衿香の潜む木を後に、咲弥は歩き出した。

 そろそろ鬼が動き出す時間だ。

 どこで鬼を迎え撃つか。

 鬼ごっこの本質である『逃げる』という行為を無視して、咲弥は最も効率のよい陣地を探して歩き続けた。


 


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