交流会3
交流会当日。
全校生徒が体育館に集められた。
誰もが興奮気味で、声高にこれから始まるゲームのことを話し合っている。
そんな喧騒の中、咲弥は女子の最後尾でひとり静かに周りの声を聞いていた。
ゲームに勝つにはまず情報だ。
出来るだけの情報を耳に入れ、冷静に判断して行動する。
特に『賞品』には興味はないが、勝負事には無条件で勝ちたいと思う性分なのだ。
「あ、あの方が神田衿香さまですわ」
不意に咲弥の耳に飛び込んできたのは、珍しく興奮気味の凛華の声だった。
その声に興味を引かれ、彼女たちの視線を追う。
「お綺麗な方ね」
ありさの言葉通り、隣のクラスの列に、お人形のように美しい少女が並んでいた。
ありさが日本人形なら、彼女はフランス人形だ。
白い肌に大きな茶色がかった瞳。遠くからでもはっきり見える、くるんとカールした長いまつげ。
明るい色の長い髪は綺麗な巻き毛だ。
……あれ?この子。
どこかで見たことがあるような気がして、咲弥は微かに首を傾げた。
だが咲弥の思考は、続けて聞こえてきた凛華の言葉に一気に霧散した。
「確かにそうですわね。でもありささまのお血筋には敵いませんわ」
血筋?
血筋と綺麗となにがどう繋がるんだろうか。
凛華の意図が分からず、咲弥は衿香に向けていた視線を凛華に移す。
咲弥と凛華たちの間に並ぶ女子生徒たちの隙間から、偶然見えた凛華の表情に、咲弥の心臓がドキリと音を立てた。
おそらく隣に立つありさには見えない角度に傾けられた彼女の顔に浮かぶのは、はっきりとした嘲笑。
その醜悪さに、思わず咲弥の顔が歪む。
なんなんだろう。この世界は。
清潔で洗練された環境。上品で美しい生徒たち。
全てがまがい物なのだろうか。
折角ありさに癒してもらったというのに、気分が下がっていくのを感じて咲弥は凛華から目を逸らせた。
「なあ、本当にお前一人で行くの?」
雄大が声をかけてきたのは、実行委員の一人が鬼ごっこのルールを説明して壇上を降りた時だった。
雄大が咲弥に話しかけるのは、あの日以来初めてだ。
「うん。そのつもり」
言葉少なに咲弥が答えると、いつもの勢いはないまま雄大が言葉を続ける。
「あのさ、山田は外部生だから知らないと思うんだけど、鬼ごっこって言ってもこの学園の鬼ごっこはただの鬼ごっこじゃないんだ。まあ女子相手に暴力行為はないだろうけど、男相手には暴力解禁されてるから。お前、どう見ても男子に見られるだろうし、特に特待生の男子は狙われやすいし」
雄大はずっと後悔していた。
凛華が咲弥を誘った時、思わず子供っぽい独占欲で咲弥を取り合うような発言をしてしまい、結果咲弥は誰とも行動しないと宣言してしまった。
あとから考えれば、咲弥が女子と行動を共にすることは、咲弥にとって悪いことではない。
男子と一緒にいて、男子と一くくりにされたほうが、余程危険である。
行動を共にする予定の光晴にも、そう散々説教された。
「だからやっぱり俺たちと……」
「心配してくれてありがたいけど、俺なら大丈夫だから」
「でも」
「危険だと思ったら、すぐ諦めて捕まればいいだけだろ?」
「そりゃそうだけど」
「俺、こう見えても結構喧嘩強いよ?」
「そうは言っても、この学園は……」
「そんな自信あるんだ。雄大は」
肩を落とす雄大に、咲弥はにっこり笑いかける。
「え? 自信?」
「そう。俺よりも強いって自信あるんだよね」
咲弥の言葉に雄大は視線を彷徨わせる。
雄大はこの学園では決して強くはない。
だが、外部入学の誰よりも強いという自覚はあった。
なぜなら、雄大たちは『ちがう』からだ。
「そりゃ、山田よりは俺の方が全然強いだろ」
しかも咲弥は男の恰好はしていても女なのだ。
雄大の言葉に咲弥は笑みを深める。
「そうっかな~。俺、雄大になら勝てる自信あるんだけど」
「は? 何言ってんのお前」
案の定、咲弥の挑発に雄大は眉を上げた。
やっぱこいつ単純。
咲弥は思い通りに動いてくれる雄大に拍手を送った。
「じゃあさ、俺と雄大、どっちが長く生き残れるか競争しない?」
「おう! 受けてやるぜ! 負けたら勝った方の言うこと聞くんだからな!」
「了解了解」
「くそー。ぜってー勝ってやる」
さっきまでの萎れっぷりが嘘のように、雄大は鼻息荒く宣言した。




