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 とりあえず、男の友人を作ろう。


 そう決めた俺、武藤蒼馬むとうそうま15歳(高校二周目)。

 朝の洗顔後、改めてまじまじと鏡の中の自分を見る。かっこいい。やばいほどかっこいい。ガチでかっこいい。語彙力が奪われるほどかっこいい。

 校内に数多存在するイケメンたちの中でも、整い方だけで言えばおそらく俺の顔が一番だ。パーツのひとつひとつの造りといい、配置バランスといい、文句のつけようがない。タレ目でもつり目でもない、さわやかな二重の大きな瞳。綺麗な睫毛。手入れのいらない、きりっとした天然の眉。通った鼻筋。さらさらの黒髪。

 コスプレが似合いそうな、まるで二次元から抜け出したような。クセのない顔の美少年だ。

 反対に言えば、特徴がないと言えなくもないけれど。

 男だって、キモイ奴やぱっとしない奴よりは、イケメンに話しかけられた方が嬉しいはずだ。持っているコミュ力は以前と変わらなくても、これは友達作りにおける大きなアドバンテージではないだろうか。


 ……いや。そうでもないかもしれない。


 リアル世界の俺だったら、こんな男前に突然話しかけられたら、何か裏をうたがうだろう。リア充や勝ち組が、俺の存在なんか気にしているわけがないと。そしていいように利用され搾取される未来を想像し、しかしバシッと拒否することすら出来ずに、あわあわとみっともなくその場から逃げ出すに違いない。なんと惨めなのだろう。


 では、「あの」イケメンたちを狙うべきなのか? 自分の容姿に釣り合うからと。相手が俺に引け目を感じないであろうからと。それはそれで傲慢な考えのような気もするぞ。

 宗形を始めとする、イケメンたちの顔を思い浮かべる。あまりにまぶしくて、想像内で目をつぶされてしまう。今の自分がスーパーイケメンだと自負していても、怯むものがある。俺、弱え。

 でも、今野さんに自分を攻略してもらうために、ライバルを知る意味でも仲良くしておいた方がいいのかもしれない。近くで行動していれば、何かがあったときに牽制も出来るだろう。


 それで、宗形玲むなかたれいは……。すでに「友人」だろうか?


 彼自身のたくさんの友人の一人に、俺を加えようとしてくれている宗形。彼との今までのやりとりが、気まずかったシーンも楽しかったシーンも、すべてが俺の脳内で渦を巻いてぐるぐるする。気持ちも一緒にぐるぐるして、整理がつかない。

 とりあえず判断は保留しておくことにした。胸を張って言えるが、俺はすぐ逃げるんだ。

 


 生徒が読み上げる英文が教室内に響く。柔らかい低音の声が、脳に心地よい。

 うちの高校は、上の下くらいの偏差値の私立で、それなりに高度な授業が行われている。進行が早い上に、板書が間に合わなかった分を教科書で補完することもかなわない。教科書から大きく逸脱した範囲まで学ぶからだ。

 リアル世界では授業についていくのに必死で、むしろすでに切り離されていると言った方が正しいくらいで、受験にうっかり成功してしまったことを恨むことすらあった。

 だが今の俺は、「もっと上のレベルの高校に行けば良かったのに」と思っている。

 つまり、暇だ。

 あまりに手持ちぶさたで、教室内を見回す。


 誰と友達になろうか。


 一通り見たところで、結局、今野さんストーキングをしていたときに見ていたイケメンたちくらいしか、名前すらまともに把握していないことに気付いた。相変わらず酷いな、俺。


 英文を読むいい声の主は、古波鮫叡こはざめえい。中学まで、ありとあらゆる「長」とつく役職をやってきたという、わかりやすい委員長系眼鏡男子だ。奥二重の知的な瞳とそのイケボイスで、命令されると逆らえない。


 古波鮫の朗読中もずっと必死になにかをテキストに書き込んでいる大柄な少年は、倉竜之信くらりゅうのしん。剣道部員だ。「うっかり受かってしまった」レベルはリアル俺よりもずっと高そうで、授業内容にかなり手こずっているようだ。ただ、まっすぐで素直な性格で、教師からの評判自体は悪くない。高一の現時点ですでに180越えの身長と筋肉質の身体、精悍な顔つき。「あの長身で、上段の構えでねー! ばしーっと! ちょおかっこいいんだよお!!」は、紅谷麻未べにやあさみの言だ。


 やたら睫毛の長い伏せ目の線の細い美少年は、白椿比眉樹しろつばきひびき。天才ヴァイオリニストだ。根っからの女好きと有名で、男子と一緒にいるところを見たことがない。

 あとは……。


 「今日はここまで。ミニテストの答案を返す。50点以下は明日の昼休みに追試を行う」

 教師の声と同時に、昼休みが始まることを告げるチャイムが鳴った。



 誰が一番話しやすいかと考えたら、倉しかないだろう。

 でかい弁当箱を前になぜか渋い顔をしている彼の前方に回る。

「あの……さ……」

「うん? なんだ?」

 曇りない大きな瞳でまっすぐに見つめられる。つらい。

 話しかけたはいいが、ノープランだ。どうしよう。

 よく見ると彼が見ていたのは弁当ではなく、その陰になったミニテストの答案用紙だった。表情がおかしいと思ったよ。

 まずいところに声をかけたかな。テストのせいで、機嫌が悪かったらどうしようか……。

 狼狽しつつも、とりあえず宗形を真似てみることにする。


「一緒に昼飯を食べないか?」


 可能な限りさわやかに言ってみる。が、明らかに顔面がひきつっている気がする。もう少し普段から、笑顔のための筋肉を使ってほぐしておくべきだった。

 倉はきょとんとしている。つらい。

 が、すぐに破顔して

「おー! いいぜ!」

 さわやかに返してきた。そうか、スマイルとはそうやるのか……。

 一礼し、弁当をひろげる。倉の重箱のようなサイズの弁当に比べると、俺のコンビニ弁当はいかにも貧相だ。

 今までろくに話したこともない奴に、いきなり昼食を誘われて受け入れるなんて、ほんとうに良い奴っぽいな、こいつ。


「ごめん、お前ってさ、名前なんだっけ?」


 ……名前すら知らないやつ相手に、本当に良い奴だな……。

 だが今までのぼっち隠遁生活ぶりを思えば、この反応は当然だ。俺がイケメンだのどうだのは、彼の気にするポイントではなさそうだし。

「武藤蒼馬だ」

「ムトウ」

 かみしめるように繰り返す。

「なんか俺に用か?」

「用と言うほどじゃないんだけど……」


 友達にならない?


 おかしい。いきなりすぎる。

 でも何か言わないと。

 慌てて、真っ先に目に入ったものについて口走ってしまった。

「テスト、どうだった? 俺は満点だったけどさ」

「追試だよ」

 結果、勉強が出来ない相手に対し、最悪の話題を最悪の形でふった。

 予想できていただろ、俺の点数はいらなかっただろ、自慢かよ俺えええええ!

「そ、そうか……大変だな……俺もたまにあったけど……」

「そうなのか?」

「いや、今の人生ではなかったかもしれない」

「?????」

 何を言っているのか。フォローにもなっていないし。


 話題を変えよう。


「そ、そうだ、倉って剣道とかすごいんだろ?」

「うん!」

 返答の素直さに浄化されそうになる。

 このでかい身体で「うん!」て。こういうところが女子の母性本能とかどうにかしちゃうんだろうか?

「ムトウも剣道をやってるのか?」

「そういうわけじゃないけど、聞いたから……」

「あ! もしかして剣道部入部希望か!?」

 どうしてそうなるんだ。

「よし、さっさと食べて部室行こうぜ!」

 どうしてそうなるんだ!!!



 結局、拒否することも出来ずに、あわあわとおろおろと剣道部道場まで連れて行かれてしまった俺だった。

 流れで入部届に名前も書いてしまった。

「よろしくな!」

 倉にばしばしと背中を叩かれながら、呆然とする俺。

 どうしてこうなった。友達を作ろうとしただけなのに。

 そして、はたと気付く。

 図らずも、「部活に入る」という目標を、クリアしてしまったことに。



 ……いや、クリアって言うのか、これ。

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