第十話 リソリューション
ブリネナ「………」
ディエゴ「ほらほら前座をやらないと」
ブリネナ「…それは必要な仕事なのか?」
ディエゴ「ほかの小説ではあまり見かけませんが、この小説では毎回必要なんです」
ブリネナ「必要であるのならやろう」
ブリネナ「それで何をすればよいのだ?」
ディエゴ「そうですね……読者に媚を売る感じでサブタイトルと開始の掛け声を」
ディエゴ(媚を売るというのはこの子には無理そうですが)
ブリネナ「相分かった」
ブリネナ「第十話リソリューション、始まるよ~♪」(ロリボイス)
一度休息を取り、万全の状態でクエストカウンターに戻る。
そこには既にディエゴとブリネナがおり、コウキはそこに合流した。
シュネルも少しだけ遅れて戻ってきた。
「今までコウキさん達はどのように調査をしてきたのですか?」
いざ行かん、とその前にディエゴが尋ねる。
ブリネナはそっぽを向いており、先程までと同様にこちらに興味はないようだ。
「どこに現れるか分かりませんし、怪しいクエストか無ければ行きあたりばったりでしたね」
言ってて残念なことだ。
これで相手が生物とかならもっと簡単だっただろう。
「これまでにノイズが現れた所をもう一度訪れてみるというのはどうでしょう」
そんな提案をされた。
「どうせ何も解っていないのです。であれば、新しいことをするより、何か残っていないかを探ってみる方がよいのではないかと」
至極もっともである。
相手の正体は不明なのだ。ここで新たな謎に挑むよりも、今ある謎のヒントを見つける方が効率はいいだろう。
なのでコウキはその提案を飲むことにする。
「そうですね。そうしましょう」
「で、どこから探す?やっぱり初めてノイズに遭って、ブロークンエッジが見つかったりしたあそこか?」
「そこからいこうか。いいですかディエゴさん?ブリネナさん?」
シュネルの意見に賛成をし二人にも確認を取る。
「ええ、いいですよ。その武器があった場所ならなおさらです」
ディエゴは眼鏡の奥の瞳を鋭くする。
「拙者は仕事をするだけだ」
そっぽを向いたまま、抑揚がなくけれど威圧感も感じられる低い声で言われた。
これは問題ないということでいいのか?彼女と付き合いが長いディエゴが何も言わないのでそういうことにしておこう。
女性に見境がないシュネルが、声に反応して身震いしたの新鮮な光景ではあった。
四人は受付の方へと向かう。
「すみません」
コウキはリセフに声をかけた。
「なんでしょう?クエストの受付ですか?」
「ああ違います。聞きたいことがあって」
「聞きたいことというのは…」
「この前あったアンノウンクエストの食糧プラントに行きたいんですけど、どうすればいいですか?」
「それでしたら宇宙船に乗って行ってください」
リセフがカードを取り出す。
「このデータカードを宇宙船にセットして指定された座標に行けば食糧プラントです」
コウキはリセフからカードを受け取る。
「ご武運を」
そしてコウキ達は船へ向かった。
目的地に着いた。
外観は人工衛星のようでおかしなところはない。
中では修復作業用ロボットが作業員の指示で働いていた。修復率は85%といったところか。
「ちょっと待ってください」
奥まで進もうとしたら作業員に呼びとめられた。
「なんでしょうか?」
それに対してディエゴが応答した。
作業員の顔には怯えが少し浮かんでいた。
「そっちには行かない方がいいっすよ」
「…というのは?」
「なんというかっすね、そっちの奥の部屋だけは直せないんすよ。これは絶対何かありますって!?」
後半になるにつれて口調が焦っていく。
何かある、いや何かあったのだが。その後遺症が続いているのか?
「安心してください。私達はその『何か』を調べにきたのです」
ディエゴは落ち着いた声で諭すように言った。
作業員はちょっとだけ安堵したように顔の怯えだ引いてきた。
「そういうことなら行ってください。そんでもってなんとかしてください!」
「ええ、分かってますよ」
作業員と別れ再び奥へ。
「来て正解でしたね」
「まだ分かりませんよ。『何か』は起こっていても『何も』得られないかもしれません」
ディエゴの言うことももっともである。
奥の部屋の扉の前に着いた。
「これで何もなかったら俺の操縦テクの見せ損だな」
「……」
「え、無視!?相槌位打ってよ!」
シュネルが空気を読まずに明るかった。
こういう場合は緊張を和らげようとわざとという場合があるが、こいつの場合はどうなのだろう。何も考えてないようにも見える。
「黙っていろ」
「はい……」
ブリネナに言われてしまった。彼女だけには本当の意味で逆らえないシュネルである。
そして彼女は扉に手を掛ける。
「開けるぞ」
ガタンッ
勢いよく開かれる。
「これは……」
あのときそのまま何もなかった。
調べてみるものの何もないのですぐに終わる。
「お!?おおっ!!」
シュネルが奇声をあげていた。
「どうしたんだ一体」
「なあみんな。見ろよこれ!」
そういっておもむろにボールを取り出し辺りにばら撒く。
ボールが床に触れた刹那……、
――――エラーエラー、エラーエラー――――
ボールの落ちたところにそんな表示が出てボールが消えた。シュネルを見てみると突然ボールが彼の手元に現れる。
「なんかまっさらでつい汚したくなってさ。そんでやってみたらできたんだよ」
それを聞いてディエゴは思案顔になり、そして顔をあげた。
「ならばこれはどうでしょうか……」
ディエゴはマントを出し、そしてマイルーム用のタンスを少し浮かせて出した。
マントでタンスの正面から隠す。マントはタンスに掛けられた。すると、そこに何もなかったかのようにマントが落ちる。それが落ち切る前に回収し、ディエゴはお辞儀をした。
コウキとシュネルは目の前の出来事に拍手をしていた。
即興手品である。
「なるほど……」
ディエゴは今ので何かを掴んだようだ。
「解ったんですか?」
「ええ。恐らくここは壊れてます」
ある意味解りきったことだった。
「人やアイテムは消えず、部屋のオブジェクトになったときにエラーになることから、多分オブジェクト認識関係のデータが破損したのでしょう」
「はあ」
「これではっきりしたことはノイズはデータを壊すことですね」
そこで納得したかのような顔になるディエゴ。
それだけ説明されても解っていることを無意味に掘り下げただけだ。
「それでどうなるんだ?」
「今私達はデータとしてこの世界にいます。そこでノイズに触れたとしましょう。そしたら人は消えるとコウキさんは言いましたね?」
「はい」
答えると、一拍置いてディエゴが再び話し始める。
「それがアカウントの破損ならばよいのですが。もし、それが我々自身の精神データだとしたら?」
それを想像した時悪寒が止まらなかった。
精神データの破損、言い換えれば脳へのダメージだ。
「これは危険ですよ」
最後の言葉は重みを持ってコウキに圧し掛かる。
『死にたくないというなら、このゲ…こんなものには関わるな』
銀の少年の言葉は文字通りの意味で命の危険を示唆していた。
今ならまだ間に合う。まだ死んでいない。だが……。
「止めましょう。誰かの命が懸かってるなら何が何でも」
関わったからにはもう戻れない。見殺しにはできない。
「まだ続けますね?」
「はい」
「シュネルさんあなたは?」
コウキとディエゴはシュネルと向き合う。
「命がけの戦いかあ」
「そうです」
「もちろんやるでしょ、男なら!」
決意の言葉としてはさすがに軽すぎないか?
「お前、その程度の覚悟でやるのか?」
コウキは怒りだしそうなのを堪えて問う。
そこでシュネルの顔が、一瞬だが真剣な表情になった。その後いつもの少し抜けた顔に戻って答えた。
「ここで気負いすぎてもどうしようもないでしょ。こう、気楽にやった方が柔軟だよ」
言われて、こいつの持つ強さが少し解った気がした。
「……ディエゴさんとブリネナさんもやりますか?」
この二人にも確認をする。
「無論です」
「それが拙者の仕事だ」
これで二人とこれからも協力していくことができる。
四人はそれぞれ決意をもってまた調査を開始する。
一代決心の回でした。
私だったら命の危機とかには関わりません。
前書きのブリネナのロリボイスはくノ一であるが故のスキルです。
感想、アドバイスを募集しております。
それではまた次回。