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大嫌いなオッドアイ

(たしか風呂って汚れた体を洗う場所だったよな)

入り方は知識としてしかなかった。そもそも人魚には風呂なんて必要なかったから。

いくつもある部屋を通りすぎ、ようやく風呂場にたどり着いた。まったく、どんだけ部屋があるんだ。俺の家なんて一人一部屋でどうにか部屋数が足りたっていうのに。

そんなことを思いつつ、脱衣スペースで服を脱いだ。さっき着せてもらったばかりなので、またこの複雑な服を着なけりゃならないと思ったら入るのが嫌になる。でも海水で髪はばりばり、肌がべとべとになっていた。洗い落とすしかない。

気を取り直して風呂の戸を開ける。するとモワッと湯気が上がった。それだけで少しワクワクした。話でしか聞いていなかった世界が今目の前にある。

「うゎ、広…」

アネキ達に話を聞いていたがそれ以上の広さだった。俺の部屋の倍以上はある。恐る恐るタイルの床に足をそっとつけてみる。足から感じ取れる感触ではツルツルしているようだ。滑んないように気をつけないと―――。そう思った矢先に、つるんっ。

ゴツッ…!

鈍い音が聞こえた後にじわじわと大きくなっていく痛み。

「ってぇーっ!」

かなり大声で叫んでしまった。どうやらここでは声が響くみたいだ。あまりの痛みに俺は頭を抱え込んだ。脱衣し終わった王子が何事だ、と驚いた顔でかけつけた。しかし現状を見ると強張った頬が少し緩み、プッと吹き出した。

「大丈夫か?」

しゃがんで手をさしのべる。その行動はとても紳士的なものに感じられた。

「なんともねぇよ」

さしのべた手に掴まらず自分で起き上がった。顔上げたその時に、初めてコイツと目が合った。それから、しばらくじぃっと俺の目を見つめていた。

「な、何だよ」

男同士が見つめ合うなんて気色悪い。

「お前綺麗な眼をしているな」

え…。

この眼は母親以外、今まで誰も褒めてくれなかった。いや、気持ち悪がられたことしかなかった。アネキ達でさえ昔は俺の事を気味悪がっていた…。だから俺はこの眼が嫌いだったのに。

フッと昔の記憶が蘇る。


―――あれは12年前。

学校に入学して自己紹介をし終わった休み時間の時だった。ずかずかと俺の周りにクラスメートが集まって来た。

「ねぇ、なんで目の色が片方ずつちがうの?」

「なんかきもちわりぃな」

「ってゆうか、なんかこわくない?」

口々に、変だの気味が悪いだの言い出した。俺は辛くて、悲しくて唇をぎゅっと噛んだ。涙で視界が歪む。それでもなんとか声を上げて泣くのだけは堪えた。家に帰って俺は母さんに聞いた。

「なんでオレ、こんな変ないろの目なの?」

そう言うと母さんは悲しそうな顔をして、何も言わず俺を抱きしめた。なぜか涙がこぼれた。何度聞いても、そんなこと言わないで、ってひどく悲しそうな声で言われる。その時俺は母さんを傷つけたと思った。俺は家を飛び出した。家には居たくなかったから。何がしたかったのか……そんなことわからない。ただ逃げ出したかっただけかもしれない。独りになりたかったのかもしれない。

そして子どもが行ってはいけないと言われていた海上に行った。その時に初めて船を見たんだ。へんな箱が浮いているってびっくりしたのを覚えている。でもそこから先は思い出せない。気がつくと家のベッドに寝ていた―――

「…い」

「おい、本当に大丈夫なのか?」

ぼんやりと立ったまま回想に浸っていたようだ。

「あ、あぁ」

嫌なこと思い出しちまった。とにかく今は風呂だ、フロ!

「お前、名は?」

「へ?」

突然のことだったので、すっとんきょうな声が出てしまった。

「え、えと…アズール」

「そうか、俺はブレイブだ。よろしくな」

な、なんかこういうのって照れるな、友達になるみたいで。改めてブレイブを見る。

艶やかな黒髪。俺には一生手に入れることのできない、真っ黒な瞳。鼻もスッと通っている。

……あー、やっぱりどこかで見たことあると思った。やっと思い出した。コイツたしか船に乗ってた奴じゃん。

「どうかしたのか?」

いつのまにか湯舟に入ったブレイブが問う。

「ううん」

取り残されたような気がして俺もあわてて湯舟につかる。程よい湯加減で気もちいい。

「はぁ~…」

温かさでなんだかほっとする、だけど…。

「………」

会話がない…。ものすごく気まずい。何か話さないと…。でも、何を?俺と共通の話題なんてないだろうし…。

結局、その後ニ人とも何も話すことなく無言で風呂から上がった。


ちなみに私は3人姉妹ですが、一人一部屋が憧れです(泣)

一人部屋が欲しいと何度願った事か…。

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