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足りないもの

その日、晩ごはんを食べ終わるとエメルダちゃんが部屋へ来るように誘ってくれた。

「ブレイブには内緒よ?」

まさか、まさかまさかっ…!!

すげぇ緊張する。いや、待てよ…。やっぱりこういうことは女の子に言わせるべきではないな。ここは男の俺から言わないと!

踏み出す一歩に自然と力が入る。部屋に向かいつつ何度も立ち止まり深呼吸。傍から見たらかなりの変人だ。

ようやくエメルダちゃんが泊まっている客室の前まで来ると、滲み出る手汗をズボンでふいてから扉を開けた。

「もぉ~、遅いよ。迷子になっちゃったかと思ったよ」

ん?

椅子に座ってシーソーの様に前後に揺れ動かす男。

…なな、何でムゼットが?!

「お待ちしていましたわ。急かもしれませんが、今夜、ブレイブにあのプレゼントを贈ろうと思いますの。二人にはそのために集まっていただきましたのよ」

なーんだ。何か残念なような安心なような…。

「でも何で急に?」

一番気になったことをムゼットが尋ねる。

「実はね、明日の誕生日に私達との時間が少しも取れないらしいの。婚約のことや政治のことでいっぱいいっぱいみたいで…」

“婚約”という言葉で胸がズキンと痛んだ。

誰かが誰かを好きになるのは構わない。だけど相手は婚約者。いずれ結婚することを約束した相手がいる。

目をぎゅうっとつぶると脳裏にブレイブとエメルダちゃんの笑顔が浮かんだ。ブレイブには笑っていてほしい。エメルダちゃんにも笑っていてほしい。でも、二人が並んで笑い合うのは…嫌だ。なんだか許せない。

「…ということでよろしくお願いしますね?」

「へ?」

あ、いけね…。ぼーっとしてた。今は歌のことだけ考えないと!

「何が“へ?”なのさ!今日の夜中12時に演奏するってことを決めたんだよ?」

「お、おう!わかった」

今日の夜中、12時だな。ふるふると頭をふって脳内から恋のライバル…ブレイブを消す。

「しっかりしてよ?」

ムゼットに心配されつつも自室に戻った。ベッドに寝転ぶと食後だからうとうとしてきた。

今は8時ちょっと過ぎ。時間まではまだまだだ。このままだと寝過ごしそうだし、発声練習でもしておこうかな?

「あ~お~え~う~い~」

うん、大丈夫。ちゃんと声は出るな。

すぅっと息を吸い、エメルダちゃんと練習した時の感じを思い出しながら歌う。

「あ…れ?」

なぜだか思うように歌えない。

歌詞に間違いはない。音程だって覚えている。けど…何かが違う。何かが足りない。でもそれが何かわからない。何度歌ってもうまく歌えない。

「アズール様、御入浴の準備が整いました」

今風呂なんて入ってる場合じゃ……いや、待てよ?風呂場はたしか声が響いたな…。

ちょうどいい。風呂に入って何がおかしいかゆっくり考えるか!!

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