表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/40

追憶

※視点が魔術師に変わります。

子どもはよく、朝早く起きて夜早く寝なさい…とか言われる。現在時刻は正午。一般的に、起床にはやや遅いと思われる時間。

もし私が子どもであったならば、今、間違いなく親にこっぴどく叱られているところ。だけれど、もう親はいないのでそんな目に合うことはない。

おかしなことに、自分自身に両親がいたという記憶は確かにあるけれど、実感というか…当時の感情が全く思い出せない。親の顔なんてものはとっくに忘れてしまった。

「ハーグ、ハーグっ!!いるんでしょ?」

おやおや、寝起きなのに来客が…。

「入るわよ?」

まだ、どうぞとも言っていないのに、勝手に上がり込んでくる。こんなこと私に向かってするのは彼女しかいませんね。いくつになってもお転婆さんな…。

「セレーネ。一体何の用です?私の昼寝シエスタの邪魔をしに来たのですか?」

「昼寝?よく言うわ。どうせ朝から寝てたくせに」

彼女は呆れた風にため息をついた。

「…じゃなくて、聞きたいことがあるの。あなたなら知っているはずよね?」

ずいっと差し迫った顔で必死に問われたけれど…何のことを言っているのか。しばらく沈黙が続くと、しだいに彼女のイエローの瞳が涙で濡れ出した。

「もしかして…アズール君のことですか?」

あの子は彼女に何も言わず海を飛び出したというのだろうか。

「あの子を見たの?」

「ええ。彼は貴女に似てますね」

容姿といい、歌のうまさといい…。セレーネには他にも娘が何人かいるけれど、容姿も歌も断トツに末っ子の彼が1番だと思う。

「そりゃあ、私の自慢の息子だし…」

「やることも昔の貴女そっくりでした。私の屋敷に訪れてきたときは驚きましたよ」

彼女は私のこの言葉を聞くと、サーッと血の気が失せたようになった。

「それって、まさか…」

「はい。アズール君は人間になりました」

そう言い終わった途端、いきなりセレーネが飛びかかってきた。目は涙と怒りでギラギラ光って見える。

彼女は本気で怒っていた。

「どうしてよっ!?どうしてあの子を止めてくれなかったの?…そうだ、今からでも連れ戻…」

「無理ですよ」

「そんな…」

私だって本当は嫌だった。けれど断れば、貴女によく似た貴女の最愛の息子が悲しむ。承諾すれば 貴女が悲しむ。

「アズール君にとって、今は、地上と海底のどちらも同じくらい大切なようです」

人間なんて愚かな生き物に、なぜ皆惹かれるのか理解し難い。

「いつかの私のように、すぐに帰って来ちゃうかもね」

セレーネは寂しく笑って言った。彼女はきっと、過去の自分と息子であるアズール君を照らし合わせているのだ。

自分のように、最愛の者と辛く悲しい別れをしてほしくない。でも…本当は、最愛の者と唯一血の繋がった息子と離れるのを寂しく思っている。

「……」

私は彼女にかけてあげられるうまい言葉が思いつかなかった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ