出発の朝
チュンチュンという雀の鳴き声。
あぁ、朝が来たのか。だけど、なんか…重い。さっきからなぜか寝返りがうてない。
「うー…ん?」
手でどけようとすると誰かに手を握られる。
「おはよ、アズール」
ちゅっ…と、手の甲にキスでもしたのだろう。眠くてはっきりとはわからないけどそんな気がした。
「ムゼット?なんで…ここに?」
眠い目をこすりつつも聞いた。
だってコイツは昨日の夜、俺に負けない宣言したばっかりだ。敵地偵察に来たとか何とか言うかもしれない。
「起こしに来たんだよ~。僕はいい子だからね」
自分で言うなよ。っていうか、起こしに来たってことは、俺、そんなに寝過ごしたのか?!
窓の外には馬車が数台用意されていた。
「ああ。予定より早く出発することになったから、僕が寝ぼすけアズールを起こしに来たってわけ」
俺の様子を見て言葉を付け足した。
「そっか。じゃ、今から用意するから」
顔洗って、歯を磨かないと。その前に、まず着替えだな。
「うん」
「あー…今から着替えるんだけど」
「うん」
「……」
「どしたの?着替えないの?」
ったく何なんだ、コイツは?いちいち言葉にしないとわからんのか!
「フツーに察しろ!俺の部屋から出ろって言ってんの!!」
空気を読め、空気を!!
「なんで?」
…恥ずかしいとかそんなん言えるわけないだろ。昼間は女の身体だから余計だ。
「恥ずかしいんだ?かわいいなぁ。アズールさえよければ、イロイロ楽しませてあげるけど?昼間限定で」
「楽しませる?」
こんなヤツに何をすることができるのか疑問だ。思わずムゼットの言葉をおうむ返ししてしまった。
「こーゆーことするって言ってんだけどさ…」
一瞬視界が宙に舞うと、いつの間にかベッドに押し倒されていた。何すんだよ…と睨んでも全く気にせず俺の服のボタンに手をかけた。
ペチィッ!!
幸いにも両手は自由だったので、顔面に掌を思いっきり叩きつけてやった。
「顔狙うなんて卑怯だぁ~。痛いよぅ…」
自分でしくしくと擬態語を言って、わざと泣くふりをしている。
「黙れ!!自業自得だっ!!」
ムゼットを部屋から蹴り飛ばして追い出した。たぶん、手にキスをした理由は、ただ単に俺の今の姿が女だからだろう。男だったら絶対にしていない。…ってそんなことはどうでもいい。もうさっさと着替えよう。
俺は着替える前に、念のために部屋の前にムゼットがいないことを確認した。いたら…どうなるかは想像したくない。正直着たくはないが、仕方なくワンピースドレスに身を包んだ。
あまり人を待たせるのはよくないので、荷物を抱えてダッシュで城の外にある庭まで向かった。
「アズール様、朝食は中でも食べられるよう準備は整っております」
よかった~。朝ごはん抜きかと思った。
「ありがとうございます」
けれど、馬車の一台に荷物を詰め込むと思わずため息が出た。
「ふぅ…」
あわてて周りを確認したけど誰にも聞かれていないみたいだった。
何でだろ?いざ、今から行くと思うと、なぜかノリ気になれない。
「アズール様、お乗りください」
「……」
「…アズール様?」
「え?あぁ…はい、今行きます!」
何ぼんやりしてんだよ、俺…。好きな女の子の家に行くんだぞ?
馬車の窓ガラスに映った自分を叱咤した。どうせ、あと2週間ちょっとでまたここに帰って来るんだ。2週間しかエメルダちゃん家にいられないんだぞ?
……2週間もこの城と離れるのか。
自分でも何でこんな気分になるのかわからない。心のモヤモヤにどんな言葉をかけてみても消えることはない。そうこうしている内に馬の蹄が心地好い音を立てて馬車を動かし始めた。
俺の不安を乗せたまま、止まることなく…。
もともとストックとして作っていたのですが、今回の話、実は370字くらいでした。
…はい、少ないですよね。ほんとは1時00分頃投稿するはずだったんですけど、さすがにこの字数はマズイと思って増やしました(^_^;)
いつも書いてから時間を置いて投稿するんです。私は時間が経ったら考え方が変わることがあるんです。そしていろいろ手直しするんです。
しかし、今回は書きたてホカホカを投稿するので少し緊張します…。