宣戦布告
しぶしぶ俺の部屋へとに着くと、クローゼットを開けて服をかばんに詰める。
「やけに素直だな」
好きな人が自分以外の男を家に招いて、自分は招かれていない…。ムゼットはそんな状況下におかれているのだ。本人はエメルダちゃんのことは好きじゃないって言ってるけど。
「何が?」
「いーや、何でもない」
言ったところでこの前みたいに全否定するのはわかっている。
「ふーん。っていうかさ、今度は何企んでるわけ?」
「企むって何をだよ?」
「エメルダだよ。アズール知ってんでしょ?」
「知らねぇよ」
俺が聞きたいくらいだよ!え…でも、これだとエメルダちゃんマジで俺に惚れたんじゃ…?
「ま、どーせブレイブの誕生日のことでなんか考えてるんだろうけど」
あ、ブレイブの誕生日のこと忘れてた。たしかエメルダちゃんがバイオリンを演奏するんだったよな。…って俺歌わなきゃいけないんだった……。
あれ?一緒に練習って言ってたよな。そのためにエメルダちゃんは家に帰る。んで、俺だけ家に招待された。
俺が家に招かれた理由ってもしかして練習のためだけ…とか?
「どうしたの?そーんな落ち込んじゃって」
「……聞くな」
口に出して言えば余計に悲しくなるだけだ。
「わかった!ブレイブと離れるのが寂しいんでしょ?そんなときのためにコレ!!」
どこをどうくみ取ったらそんな発想に結び付くんだよ?
「ちげーよ。何だよ、それ?」
ムゼットは黒い髪を生やした人形を取り出し見せつける。
「ブレイブ人形♪」
ブレイブと言われるとなんとなくそう見えてきた。
「よくできてるな」
着ている服も本物そっくりで精巧に作られている。
「でっしょお♪それだけじゃないんだよ、ほら!」
いきなり人形のズボンとその下に履いていたパンツを脱がせた。そんなことしているのを見ていると、ムゼットがますます子どもっぽく見えてクスッと笑ってしまった。しかし、何も履いていない人形の下半身を見て俺は硬直した。
「な、なあ、それ…」
何ていうか…その…、リアルっていうか…。あまりにもよくできすぎている。道理でズボンがもっこりしてると思った。
「すごいでしょ。これで夜の営みもバッチリ!」
なっ、何考えてんだ、こいつは…!
「あのなぁ、俺は女が好きなの!エメルダちゃんが好きなんだよ!!こんなもんいらん!!」
ブレイブ人形をブレイブと少し似た顔の青年に投げつけた。…が、見事に受け止め、ぶーぶーと文句を言ってくる。
「…せっかく執事に作らせたのにさ」
(んなもん作らせんな!!)
「あ、そーだ!ドレスとかかさばるからエメルダに借りれば?僕からも貸すように言っといてあげる」
「随分と親切なんだな」
立ち直りが早いっていうか、気まぐれっていうか…。
「そんなのエメルダと会話するための口実だよ」
「え…?」
ムゼットの言葉が一瞬理解できなかった。
さっきまでヘラヘラ笑っていた横顔は、いつの間にか挑戦的な笑みを浮かべてこちらを向いている。
「アズールには負けないから」
そう言うとにこっと笑って、いつもの調子で部屋から出て行った。残された俺は、なぜか、どんどん遠くなっていく足音が聞こえなくなるまで動けなかった。
ムゼットのさっきの言葉が脳裏でリフレインする。
俺だって負けていられない。
「ぜってぇ負けねぇからな!!」
誰もいない扉に向かって力いっぱい叫んだ。
続きが思い浮かばす逃げてました。
逃げて逃げて逃げて。
そしたら急に書きたくなりました。大したネタも浮かばない癖に。
やっぱり最後まで書きたいんです。魔術師のことも謎のままですし。
今のところ名前がないの彼だけですからね(^_^;)