双方の道
城に帰った俺はさっきからずっとぼーっとしている。そのおかげで、シャツに着替えるときボタンを掛け違えた。
(人間と人魚か…)
どっちの世界にも俺にとって同じくらい大事なもの。どっちかの世界で生きることを決めたら別れを選択しなければいけない。
人間として生きること決めれば、母さんやアネキ達、友達と別れることになる。
人魚として生きることを決めれば、ブレイブやムゼットやエメルダちゃん、ダトニオ爺さんやその他お世話になったメイドや執事達と別れなくてはならない。
出会いは別れの始まりって言うけど…。
「ブレイブ…」
…ブレイブ?何で今あいつの名前なんて呼んだんだ?
「だーもー!!」
手元にあった枕をばふっとベッドに向かって投げる。
今日の俺はいろいろとおかしい。さっきだって、いくら何でもあのタイミングで抱きつくのはおかしい。それが男だなんてもってのほかだ。今、あのとき言ったことを思い返せば自分の言葉なのに吐き気がする。
―――ちょっとの…ぁいだだけっ、こ…してていいか…?―――
どんだけ女々しい奴が言うセリフだよ。女の子だってそんなこと、言わないと思う。
多分エメルダちゃんが来たせいで感情の起伏が激しくなってるだけだ。そうだ、そういうことにしておこう!
「ごっはんだよぉん♪」
「ぬおぉっ!!」
び、びっくりした…。何で突然現れるんだよ。っていうかノックしろ!
「アズールったら叫んじゃってぇ~。エメルダが泊まるからって浮かれてるんでしょ?」
叫んだのは事実だけど、今の俺のどこをどう見たらそういう風に見えるんだよ!!たしかに嬉しいけど今は浮かれている気分じゃない。
「それはムゼットの方だろ?」
「はっ…?い、意味わかんないし!」
わっかりやすい性格。
「とにかくご飯だよ!早く来ないと僕がアズールの分まで食べちゃうからな!」
「おっ、おい、待て…!」
俺のごはん~っ!!
ムゼットのあとを慌てて追うといつも見慣れた食卓にエメルダちゃんが座っている。ご飯のために猛ダッシュしたなんてはしたないところは見せられない。ここは優雅に振る舞おう。
「どちらさま…ですか?」
「えぇっ?お、俺だよっ、アズールだよ!!」
なんかすんごく精神的ダメージを受けたんだけど…。どういうことなんだろ。数時間前は楽しく話していたのに…。
「アズールさんって女の方でしょう?でもそう言われるとアズールさんにすごく似てるわ。…もしかして、あなた…」
し、しまった!バレたぁ~!!