ティータイム2
※ブレイブ視点です。
なんとかアズールを誘うことができた。
客間に入ると甘い菓子の香りに包まれた。俺達が来たことを確認した執事がカップに紅茶を注ぐ。
柑橘系の香りがふわっと広がった。
(アールグレイ…か)
甘い物を食べるにはちょうどいい。
「ありがとう。もう下がっていいぞ」
頭を下げた執事は静かに退室した。
テーブルには先程淹れたばかりのアールグレイと、等分に切り分けられたお土産―――ズコットが皿に盛られ並べられていた。ナッツやチョコチップ入りのクリームのおかげで、切り分けた時の美しさが一層増した。
しかし、甘い物はあまり好きではない俺にとってはこれを食べると考えただけで胸やけしそうなのに、アズールは目をきらきら輝かせてズコットを見つめていた。
とりあえずアズールを座らせようと思い、椅子を引いてやり、座れという合図を送った。アズールはムッとした様子で椅子に身を委ねた。しかしテーブルに目を移すとまた嬉しそうな顔をしていた。
けれど座ってから、いつまで経ってもズコットに手をつけなかった。
「食べないのか?もしかしてズコット…嫌いか?」
俺と同じく甘い物が苦手だったのだろうか?
アズールは首をぶんぶんと横に振り、否定の意を示した。
「だってお前が食べないから…。食っていいのか?」
どうやら俺が食べるのを待っていたようだ。
何だかアズールが、目の前にある餌を待てと言われた犬のように見えた。フッと笑うとまた怒ったような顔をした。
「何笑ってんだよ?甘い物好きで悪かったな」
「甘い物、好きなのか?」
しまったという風に口を押さえていたが、俺の耳にはもうしっかり届いている訳で。ふん…と乱暴にフォークを刺し、口へとアイスケーキを運ぶ。
「あっ…これ、うまい」
途端に頬が綻ぶ。俺もケーキを口に運んだ。
(甘い…)
たっぷりのクリームは甘い物好きには堪らないだろう。
気がつくと、アズールの口にはクリームが。
「口にクリームが付いてるぞ」
「どこだよ?」
尋ねる彼に、ここだと自分の口に手を使って指し示す。
「んっ…と。サンキュー」
ペロッと舌で舐めるその仕草は妖艶なものだった。きっと無意識でやっているであろうが、俺の理性の糸に振動が伝わり揺れ動く。
「でも…」
「ん?」
「ムゼットにも食べさせてやりたいな」
その言葉を聞いたらなぜか憤りを感じた。
(何でここであいつの名前が…)
「あいつは家に帰った」
「そっか…」
残念そうに肩を竦めるアズール。
「そんなに……あいつが気になるか?」
「え?」
言葉を聞いて、不思議そうに目をぱちくりするアズール。よく聞こえてなかったみたいなので、慌ててごまかした。
「い、いや…何でもない」
何言ってんだ、俺は…。
「ブレイブは食わねぇのか?」
俺の一口しか減っていないズコットを見て言う。言ってくれるのはありがたいが、このクリームの量だ。食べ切るには相当な気力を要するだろう。
「甘い物は苦手でな…」
アズールはふーん、とうそぶき、思いついたように言った。
「んじゃあ、半分食ってやるよ」
(おいおい、まだ食べるのか…?)
フォークで俺の分のケーキを半分に切り分けた。
すでにアズールの皿は空になっており、新しく俺の半分に切ったケーキをぱくついているところだった。
あれを1切れ食べたのに更に食べるなんて胸やけしないのか。
「あ~、うまかった」
綺麗に平らげてしまった。痩せの大食いとはこういう奴の事を指すのか。
俺も再びフォークを進める。
…やっぱり甘かった。
でも、こいつと一緒に食べると不思議とうまく感じる。
「なーんだ。うまそうに食ってるじゃねぇか」
そんな事はないはず。ただ、今はおいしく感じただけだ。
「なぜそう思う?」
「だって、さっきも今も笑ってたからさ」
そうか……。俺は笑っていたのか。
けれど、俺は一体何が楽しくて笑っていたのか。何がおもしろくてそんな顔をしたのか。
考えても考えても今の俺には答えが全く見出だせなかった。
本当はロールケーキにしようと思ってたんですけど、何かもっと貴族が食べるぞってヤツがよかったんです。んでその結果がズコット。
アイスケーキと言っても、スポンジ生地の中に柔らかいアイスが入ってるものらしいです←よく知りません。