人間へ
ギィィ…。
古びた扉を開けると、不気味なものがところ狭しと積み重なっていた。玄関というのを疑いたくなるほどだ。おそらくこの家の主である魔術士が使う道具なのだろう。
「おや、珍しいこともあるものですね。こんなところに訪れる者がいるとは」
そう言う魔術師は、口元にうっすら不気味な笑みを浮かべている。
「なぁ魔術師、ちょっと頼みてぇことあんだけど…」
「何ですか?やぶから棒に」
俺は自分の願いを告げた。
「いずれあなたはきっと後悔するでしょう…。人間は、わたし達人魚一族よりはるかに寿命が短い。何よりおろかな生き物だ」
「んなこと何でわかるんだよ?偉そうなこと言うな!短い時間の中で精一杯生きてる方が、俺達よりもずっと立派なんだよ!」
しまった…、怒鳴っちゃった。頼みに来たのに怒鳴ってどうする!!
「あの…、すまな――」
謝罪の言葉を言おうとしたら遮られた。
「いいでしょう。そこまで言うのなら自分の目で、身体で確かめて来なさい」
そういうと何やら紅色をした液体を差し出し、飲むように促された。
「それを飲むとあなたはおそらく人間になるでしょう」
そうか、これを飲めばおそらく人間に…。
……。
…ん?
お、おそらくぅ!?
「どういうことだ?完璧に人間になれるんじゃないのか!?」
俺があわてて言ったのがおかしかったのか、愉快そうにこう言った。
「まだ開発中なんですが…、まぁ大丈夫でしょう。以前、君と同じように頼みに来た者には成功しましたし。それでも何か不具合があるかもしれませんから気をつけてね☆」
なんかキャラ変わってねぇか?開発中、って大丈夫か、これ!?でも手段はこれしかない。
鼻をつく異臭を堪えながら一気に飲み干した。
目の前がぐらりとゆらぎ、急に息が苦しくなった。呼吸をしても、口に入ってくるのはしょっぱい水で。頭も痛いし、吐き気もする。いつものように泳ごうとしても上手くいかない。
(く、苦し…)
必死にもがいてやっとのことで海面に浮かんでこられた。
「ぷはぁっ…っはぁ、はぁ…」
死、死ぬかと思った…。
「あ、いい忘れてましたけど、人間は水の中では息ができませんよ。」
(言うのが遅い!!)
呼吸が荒くてしゃべれない俺は、思いっきりコイツをにらんでやった。
…いや、待てよ。
今のコイツの言い方だと俺は人間になれたってことか?尾ヒレを見ると、そこにはそれはなく、代わりに2本の足がついていた。
「っしゃああぁっ~!!!サンキュー!」
「それはどういたしまして。とりあえず岸に上がってはどうですか?このままではあなたがいつ溺れるかわかりませんからね」
うっ…、くやしいがコイツの言う通りだな。なれない泳ぎで、やっとのことで岸までたどり着いた。
(さてと、これからどうすっかな?)
少なくともあの娘に会うためには、どこかの城に行かなければならない。辺りを見渡しても日が落ちてしまったので、暗くてほとんど何も見えない。第一手がかりも何もない。
(まぁ、なんとかなるか)
いつものポジティブさと好奇心旺盛な性格のおかげで、不安よりも楽しみの方が大きかった。
ここまでは普通の人魚姫とほぼ同じなんですけど……。さて、これからどんな話にしていきましょうか?