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ブレイブの過去

城の生活にも慣れ、やっと誰の部屋がどこにあるのかもなんとなく把握できてきた。それでも、やっぱりまだ迷う訳で…。自分の部屋がどこだったかわからなくなってしまった。扉はどれも同じ様に見えて見た感じじゃわからない。ここに住みはじめてから、自分が実は方向音痴なのでは…と思えてきた。

途方に暮れて当てもなく歩いていると、ドンッと誰かにぶつかった。

「あ、すいません」

俺とした事が。ちゃんと前見て歩いていたのに。

「こちらこそすまない……って、アズール?」

「え?」

不意に名を呼ばれ、顔を上げると目の前に立っていたのはブレイブ。会うのはしばらくぶりだった。

「お前、もう仕事はいいのか?」

「ああ。全て片付けたが…。そんな事より、ここで何してるんだ?」

そうだ!コイツに聞けば俺の部屋がどこにあるかわかるはずだ。

「俺の部屋どこだかわかんなくなっちゃって…。ここってどこなんだ?」

「ここは俺の部屋の前だが?お前の部屋はこの真下だ」

しまった、階間違えた…。何かブレイブには毎回まぬけなところを見られているような…。

「よかったら寄ってかないか?」

「は?」

ブレイブは親指を立て部屋をクイッと指した。

「お前には色々と聞きたい事がある」

聞きたい事って何だろ?スリーサイズとか?

……ありえねぇな。

「遠慮なんてするな。ほら、入れよ」

扉の前でまごついていた俺は、やや強引に部屋に入れられた。

中に入ると香ばしい匂いがした。匂いの元はブレイブのデスクの上のカップから。中には黒色の液体が入っていて湯気が上がっている。

「お前もコーヒー飲むか?」

なるほど、これはコーヒーという飲み物か。いい匂いするし…ちょっと飲んでみようかな。

「おいっ、それは俺の…」

「んなケチくさい事言うなよ。一口だけ…」

ゴクッと勢いよく飲んだのが間違いだった。

「あっつぁっつぁっ!!……うえぇ~~。苦…」

味を確かめる前に熱さが広がり、その後にやってくる苦さ。こんなのよく飲めるな。飲み物であることを疑いたくなる味だ。

「もしかして、コーヒー初めてだったのか?」

先程の熱さによってダメージを受けた口を押さえながらコクコクと頷く。紅茶なら甘くておいしいけど、これはただの苦い汁だ。

「それならいきなりエスプレッソはキツいだろ?」

フッと笑って言うが、コーヒーという飲み物を初めて知った俺には何を言っているのかわからない。そもそもコーヒーには種類があるものなのか?

とにかく、これは匂いだけで十分だ。もう何があっても絶対に飲まないぞ!

「…それより聞きたい事って何だよ?」

話を逸らすために話題を変える。するとさっきまで笑っていたブレイブがやけに真剣なものになった。

「アズール、お前は何であんな所に居たんだ?」

「だからそれは部屋を探してて迷って…」

「さっきの事じゃない。俺と会った時の事だ!」

それだけは言えない。人魚は、その存在を人間に晒してはいけないという掟があるから。

人間の間では、人魚の肉を食べると寿命が延びると言い伝えられているそうだ。そのためたくさんの人魚が捕まえられ、殺されたらしい。俺が生まれる前にほとぼりはさめたらしいが……。聞いただけなのではっきりとはわからないけど、そのせいで今でも人間は人魚の世界では嫌われ者だ。だから掟を破った者は海を追放される。俺が今人間として生きていることも、もしかしたら掟を破っているかもしれない。

ブレイブが俺の正体を知っても、殺したり、食べたりしないと信じていない訳ではない。ただ、もし、今追放されたとしたら…。もし、恋が叶わなかったら…。

……帰る所がなくなっちまう。

「俺に言えないのか?」

先程よりも優しい口調だったが、俺には黙って頷くことしかできなかった。よくよく考えてみれば、俺は自分自身の事を何も話していない。それなのにブレイブは俺をここに置いていてくれる。

「お前の親が心配しているのでは―――と思ってな」

ブレイブはぽつりと呟いた。その時の顔はなぜか悲しそうに見えた。

「俺、もう家には帰れねぇんだ。これも特別な薬と関係してるんだけど…」

俺が言えるのはここまでだった。

「そうか…。無理に聞こうとして悪かったな」

眉尻を下げてもかっこよさは下がらない。うらやましいぜ…。

そういやコイツの親って見かけないな。

「前から思ってたんだけどさ、お前の親ってどこに居るんだ?」

「もう居ない」

「……え?」

ブレイブの言った言葉が信じられなかった。

「12年前に死んだ。もうこの世には居ない」

そんな、そんな…。親がもう居ないなんて……。なのに何でコイツはこんな涼しい顔をしていられるんだ?何…で……?

「おいおい、何もお前が泣く事じゃないだろ?それも何年も前の事で…」

ブレイブは驚いているけどそれ以上に俺が驚いてる。

(俺が、泣いてる?)

頬に暖かな雫が流れ落ちるのがわかった。視界もぼやけて窓の外の夕日が霞む。そこでやっと泣いてる事に気がつく。

「だっ…だって、ぅぐっ…お前がぁっ…ひぐっうぅ……ぐすっ」

涙声でうまく喋られない。それでもブレイブには言いたかった事は伝わったようで。ブレイブは今まで見た事ないくらい優しい顔をしていた。

ドクンと胸が波打った。

そして、ぽんぽんとまるで子どもをあやすかのように頭を撫でた。

「俺だって泣きたくなる時もある」

沈みかけた夕日に照らされたその表情は、どこか哀愁を感じた。もうすぐで日は沈む。

気分は落ち着き、先程まで濡れていた頬はもう乾いていた。

ドクン、ドクン。

心臓の音がうるさい。ブレイブにまで聞こえてしまいそうだ。

俺の身体が女から元の男の姿へと戻る。さっきからの激しい心拍数の原因は多分これだ。

窓の外を見ると日は沈んでいた。

「戻ったのか?」

「ああ」

髪も元の長さへと戻ってすっきりした。今も胸がざわざわするけど、きっとさっきの余韻が残ってるのだろう。

「じゃあ、またな」

少し長居しすぎたか?けどブレイブが誘ったんだし…いいよな。

「もう迷子にはなるなよ?」

にやりと笑って湯気の立ちきったコーヒーを飲んだ。

「心配無用だ!!」

バタンと荒々しく扉を閉めてやった。皮肉まで言われたからには、もう絶対迷子にはなんねぇよ!

……って、あれ?

帰り道、どっちだっけ…?

今回は何かシリアスっぽくなってしまいました…。



素朴な疑問


王様が死んだら王子が王様になるんでしょうか?


…どちらにせよ、ブレイブは王子。王様とは認めません←おい


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