プレゼント
「じゃーん♪」
ドアノブを回した先にあったのは1着のドレス。薄緑色を基調としていて、ところどころにクリーム色のフリルがあしらわれている。白い小花の柄もついていて、一言で言えばかわいい、だろうか。女の子にプレゼントするにはピッタリなんだが…。
「かわいいでしょ?着やすく動きやすいように、ドレス丈は膝くらいにしてもらったんだ」
「ふーん」
そりゃあいいな。確かにこれだと動きやすそう。
でも、それを俺に言ってどうする。そんなこと着る人に言えばいいだろ。
…あれ?それなら何で俺に言ったんだ?まさか、俺が?まさか……な。
ポジティブ精神な俺でも嫌な予感がした。
「ちょっと待て。これ、誰が着るんだ?」
ムゼットはきょとんとした顔で答えた。
「アズール以外に誰がいるって言うの?」
予感的中。…やっぱり俺か。もしかして馬鹿にされているのか?目の前のかわいらしいドレスを見ているとこんな事を思ってしまっても仕方ない。
フツフツと怒りが込み上げてくる。そんな俺に気づいているのかいないのか、拍車を掛けるかのように、ムゼットは笑顔で俺に着てみてと言った。
「お前、ふざけてんのか?こんな物俺に着させようとして」
こんなふざけたヤツが王家の人間だとは思えない。俺はムゼットを思いっ切り睨んでからドアノブに手をかけた。
「ちょっと待ってよ。何か勘違いしてない?これは君のためなんだよ」
腕を掴まれて引き止められる。
「何が俺のためだ。ただのテメーの趣味だろ」
俺は掴まれている手を振り払った。
「や…、そうかもしれないけど……。でもっ」
また腕を掴まれる。今度は、ぐっと掴まれているので振り払えない。
「君の今の姿は女の子。……心は男だけれど」
そんなこと言われなくっても俺が一番わかっている。何が言いたいんだ?
「でも君の今の服装は男。この城の人達や僕は事情を知っているけど、知らない人から見たら不思議に思うだろうね」
うっ……、そういうことかよ。コイツは本当に俺のために…。
「そ、そりゃ悪かったな」
「わかってくれたならいーよ」
にこっと言われると一層罪悪感が増す。気を紛らわすために、改めてプレゼントされたドレスを見た。
裾にはフリル。袖は膨らんでいる。どうせ着るならもっとシンプルなのがよかった。
ため息をついて近くのソファに座った。ふと目に入ったのはテーブルの上に置いてある髪飾り。手にとってよく見てみると、そのリボンも薄緑色で結び目のところに白い薔薇の飾りが縫い付けられている。
「それ、つけてみる?ドレスとセットで作ってもらったんだ」
道理であのドレスと似ていると思った。
「誰がつけるかっ!」
「ちぇっ…。じゃあドレスだけでも合わせてみて」
俺は言われた通り、服の上からドレスをあててサイズ確認をした。寸分の狂いもなく、見事にピッタリだった。
「ピッタリだ…。お前よく俺のサイズわかったな」
「だってこの前の夜に測ったもん。…アズールが寝てる間に、ね」
体中に鳥肌が立った。寝てる間に、誰が部屋に来ても別に何も思わないし感じないけれど…。俺はこの前こいつに犯されかけたのだ。本人曰く、“触診ごっこ”らしいが…。
「大丈夫。男に手を出すほど飢えてないよ」
じゃあ女だったらどうなってたんだ?なんてことは恐ろしくて聞けなかった。