理由
テーブルにはおいしそうな数々の料理。俺には痛いほど突き刺さる視線。
「あのさ、そんなに見られてちゃ食べづらいんだけど…」
気になるのはわかる。急に性別が変わってるんだからな。無理もないだろう。
「だって、お前…「理由は後でちゃんと言うから」
しばらくの沈黙。
ブレイブの方を見ると目が合った。早く話してくれって顔しているような気がした。
「あのさぁ、僕の存在は無視ー?」
気まずい雰囲気をぶち破るのんびりとした口調。
「そういえばムゼット、何でお前がここにいる?この前のパーティーの後、帰ったんじゃなかったのか?」
そうか。あいつ、ムゼットって名前なのか。
「ひどいなぁ。用が無くちゃ来ちゃいけないの?せっかく従兄弟が遊びに来たのに…。ねぇ、アズール?」
知るかよ、そんなこと。俺に話を振るなよ!
「もうアズールと知り合ったのか?」
「うん。何か僕の部屋に居たから」
「あそこはお前の部屋じゃない。来客用の部屋だ。お前が来る度あそこに泊めているだけだ」
会話が盛り上がる?中、俺は黙々とごはんを食べた。だって人間の食べる物は珍しい。しかもどれもこれも美味い!
「アズール、そんなにがっつくと喉に詰まるよ?」
「?!っぅぐ…」
言われた矢先に…。何で俺はこんなにドジなんだ。
「大丈夫か?ほら、水だ」
「んぐっ、んぐっ、ぷはぁっ」
ブレイブが水を渡してくれたおかげでなんとか助かった。こ、今度からはじっくりゆっくり食べよう…。
朝食を終えたところで、ブレイブに今の姿の理由を話すことにした。言ったところで信じてくれるかどうかわからないが…。
「えっと…。その…、俺さ、ちょっとした事情があって特別な薬を飲んだんだ。そうしたらこうなった。」
ブレイブとムゼットは黙ったまま、じっと聞いていた。
「そのせいで昼間は女、夜になったら元の男の姿に戻られる……らしい」
言い終えブレイブの顔を見る。何とも言えない複雑そうな表情をしている。
「軽蔑……するだろ?」
俺は答えを聞くのが怖くて二人の顔が見られなかった。
何を言われるかわかっていた。それでもやっぱり言われるのが怖い、と言うより辛い。
でも、その感情は次の一言によって一瞬で掻き消された。
「別にそんな事関係ないんじゃない?」
「え?」
今なんて…。
「そうだ。少し驚いたが…、変わったのは外見だけ…。違うか?」
知り合って間もない2人からこんな言葉がかけられるなんて、思ってもみなかった。
「へへ、サンキューな」
人間は思っていた何倍も何倍も優しく、心が広かった。