回転寿司は好きなものを食べるところだよな
「回転寿司?」
「そう、今日のお昼はそれにしない?」
高校二年。
俺のクラスは奇跡的に男女の仲が良く、今日は外で遊ぶことになった。
その前に昼飯を外で食べようという話になったのだが、何処で入手したのか特別な割引券があるからと回転寿司に行く流れになった。基本的にこういう時の昼食代は親が出してくれる家庭が多いので、高校生でも遠慮なく行けるのだ。
「それじゃ席分けクジ~」
イベントごとが大好きな女子が鞄からクジを取り出した。今日は人数が多いからこんなこともあろうかと用意してあったらしい。
「頼む!」
「白羽さんと同じ席になれ!」
「神様お願いします!」
「あはは、男子ったら必死すぎ~」
白羽さんというのは、クラスで人気の大人しい美少女のこと。照れているのか、少し頬を染めて苦笑いしている。
「いよっしゃあああ!」
「くそぅおおおお!」
「終わった……いや、まだ午後のイベントがある!」
悲喜こもごもといった男子とは対照的に、女子は割と淡泊な反応だな。女子一人だけとかにはならなかったし、変な男子もいないからってとこかな。
お、やった。白羽さんと同じ席だ。
俺としては白羽さんは可愛いとは思うけど、人となりが良く知らないし付き合いたいとまでは思ったことはない。目の保養って感じかな。
「よろしく~」
「おっ、京楽君じゃん。おめでと~」
「おい京楽、白羽さんの隣は俺だからな」
「はいはい、どうぞお好きに」
女子は歓迎してくれたが、俺以外の唯一の男子の塔矢が露骨に俺を牽制してきやがる。白羽さんと付き合いたいって前から公言してたから、チャンスだと思っているのだろう。
席順はレーンに近い方から、塔矢、白羽さん、女子。そして女子、女子、俺という形で俺は一番通路側。六人席に六人座っているから狭いけどしゃーない。
「それじゃ最初何頼む?」
俺の列のレーンに一番近いところに座っている女子、風祭さんがリードを取り、注文タブレットを手にしている。
「そりゃあ最初はマグロでしょ!だよね、白羽さん!」
「え?あ……う、うん。そうだね」
塔矢頑張ってるなぁ。でも白羽さんが少し引いてるから自重した方が良い気がするが。
「じゃあマグロ六個頼むね」
おっと危ない。このままじゃ俺もマグロになってしまう。
「いや、俺はハンバーグで頼む」
「は?」
「え?」
「ハンバーグ?」
おやおや、なんか雲行きが怪しいぞ。
「あのさぁ、寿司屋でハンバーグ頼むのってどうなのよ。子供じゃないんだからさぁ」
「っ!」
塔矢がすげぇ嫌そうな顔で俺の注文を否定してきやがった。さては、同卓の唯一の男子の俺を貶めることで相対的に良いところを見せようって考えか。
でも肝心の白羽さんが、塔矢の言葉に身体をビクって震わせたような気がするんだが。
「な、みんなもそう思うだろ?」
「別に私は良いと思うけど、でもお寿司屋さんに来たならお魚のお寿司を食べたいかな」
「分かるぅ。ハンバーグ食べたいならハンバーグ屋に行くよね~」
「私もあんまり変わったのは食べないかな」
いやいやいや、最近の回転寿司ならハンバーグとか普通だろ。
どうやら完全アウェイのグループに入ってしまったようだ。つらたん。
「でも個人の好みだしね。分かった。それじゃあマグロ五つとハンバーグ一つ注文するね。他には?」
「サーモンか、イカか……白羽さんは何が良い?」
「わ、私は後で良いから、先に頼んで」
「そう?遠慮しなくて良いんだぜ?」
「う、うん」
どっちにしろ一度に沢山は注文できないからな。この人数なら早く食べたい人優先で頼んだ方が良いだろう。白羽さんはがっつくタイプじゃなさそうだし。
「じゃあイカ頼むね。何個にする?」
「六個で良いだろ。全員食べるっしょ」
「いや、俺は牛カルビで」
「またかよ。お前まさか魚介アレルギーで肉とかしか食べられないのか?」
なんだ塔矢も良いとこあんじゃん。俺の事を心配してくれるだなんてさ。
でもそういう訳じゃないし、普通に魚のお寿司も好きだぞ。
「今日はそういう気分ってだけ。あ、後で良いのでエビ天とわさびなすも注文しといて」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
う~ん、気まずい。
だが俺は俺の食べたい物を注文する。それが俺の流儀だ。
というかさっきから白羽さんがこっちをチラチラ見ているような気がするんだけど、どうしてだろ。
「あ、マグロ……とハンバーグが来たよ」
そうこうしているうちに最初の注文が到着した。
今日は珍しくあまり混んでないからか、沢山の注文でも来るのが早いね。
「いっただっきま~す」
シャリの上に乗っている肉の塊。
これこれ、このビジュが良いんだよ。
「んん~おいしい」
口の中に入れた瞬間に広がる肉々しい感じがたまらない。シャリとの相性も抜群だ。
さて、もう一つも食べ……おや、白羽さん?
やっぱり俺の方を見てる。
というか、今はハンバーグ寿司を見ているな。
はは~ん。
そういうことか。
「白羽さん、良かったらこれ食べる?」
「え?」
二貫中の残った一貫を白羽さんに勧めてみた。
すると当然、塔矢が反応する。
「あのさぁ。そういう押し付け良くないぜ」
「押し付け?」
「そうだよ。白羽さんがそんなの食べる訳ないだろ。彼女はお前と違ってマグロとか普通のが好きなんだからさ」
その割にはマグロに手を付けていない様子だぞ。
「そうなの? 白羽さん?」
「え……あの……その……」
「だからさ、ダメだっていうのが分からないのかよ。彼女は優しいからそんな風に言われたら嫌でも受け取ってしまうだろ。全く女心が分かって無いんだから」
確かに俺は女心が分からない。分かっていればとっくに彼女が出来ているだろう。
だが目の前に出されたものが好きか嫌いかくらい、白羽さんみたいに分かりやすい反応をしてくれれば分かるわ。自分が正しいと盲目状態な塔矢には分かって無いみたいだけど。
「白羽さん、本当にこれ要らない?」
「いい加減にしろよ!こんだけ言ってるのに分からないのかよ!」
あ~あ、怒っちゃった。
「悪い、空気読めなかったな。俺、席移動するよ。向こうに五人席があるみたいだからさ」
クラスメイトと喧嘩なんて面倒すぎる。こういう時は退くに限る。
「え?そんなことしなくて良いよ。塔矢君、言い過ぎ」
こういうところが、うちのクラスの女子の良いところなんだよな。じゃなきゃクラスで遊びに行くなんて話にはならないもん。
「べ、別に俺だってそこまでしろって言ってる訳じゃねーよ。ただ、こいつが妙な注文ばかりして白羽さんを困らせるから……」
とはいえ、このままじゃこの席の空気は悪いままだ。せっかくのお昼ご飯が美味しくなくなっちゃう。
だから尤もな理由をつけてやっぱり移動しよう。そして午後のイベントで少しずつ塔矢と仲直りすれば良い。塔矢だって白羽さんに良いところを見せたいと思って焦っておかしくなってるだけで、普段は気の良い奴なんだ。それでうまくいくだろう。
「それそれ、だからやっぱり移動するよ。皆って定番ネタを頼むタイプなんだろ。だとすると注文する時に俺だけ別のになるから面倒でしょ」
「そのくらい気にしなくて良いのに」
「でもさ、ここの注文タブレットって、注文の種類で制限がかかってるだろ。だから俺だけ違うのにするとそれが邪魔になって皆が一気に注文できる個数が減っちゃう。チラっと見た感じ、向こうの五人席は変わりネタも頼んでるみたいだし俺も気軽に注文できる。ほら、俺が移動すればみんながハッピーだろ」
とまぁそれっぽい理由を説明して立ち上がると、女性陣は申し訳なさそうな顔をしてくれるけれど止めようとはしなかった。俺の気持ちを優先してくれたのだろう。ここで必死に止められても困るしな。
でも、悪いけど俺が何もせずに居なくなると思ったら大間違いだ。
飯は楽しく食べるべき。
そう思っているのだから。
「白羽さんはどうする?」
「え?」
「ご飯は好きな物を楽しく食べるのが大事だと俺は思うんだ」
「…………」
少し俯き、悩む白羽さん。
他の女子をチラっと見たら、どうやら何がどうなっているのか察してくれた様子だ。ここで悩むということは、彼女は定番ネタ以外を頼むタイプであるかもしれないのだ。もしそうだとすると、定番以外をこき下ろした塔矢の隣になど居たいはずがない。
「おい京楽」
「塔矢君はすこ~し黙ろうね」
「いでっ!」
はは、どうやら机の下で足を蹴られたようだな。
「白羽さん、あなたの好きにして良いよ」
「そうそう。京楽君の言う通りだと思うし」
「さっ、行きなよ。向こうにこはるんがいるから、理由を話せば交換してくれると思うよ」
「…………う、うん。ありがとう」
通路側の女子が席を立って道を開けると、白羽さんが通路まで移動する。
「え?何で?え?」
一人だけ状況が分かっていない塔矢。
君が俺や白羽さんを意識しすぎて変なことを言わなければ一緒に食べられたのにね。
「塔矢君はこのままここでお説教ね」
「え!?」
「流石にさっきのは無いわ」
「女心が分かる分からない以前に、人としてどうなのかって話」
「何もかもダメダメ」
背後で可哀想な話が聞こえて来たが自業自得だろう。レーン側に座ってしまったから逃げられないし。
「あの……京楽君、ありがとう」
「何のことかな?俺はただ白羽さんと一緒に楽しくお昼を食べたかったから塔矢を利用した小悪党だぜ」
「くすくす、そうだったんだ」
流石にこの遠慮のやり方はあざとすぎたかな。でも白羽さんが笑ってくれたからそれで良いや。
なお、席移動した白羽さんが最初に頼んだのは、なんこつの唐揚げだった。全員でシェアして美味かった。
たったそれだけ。
でもそのきっかけが俺と白羽さんの距離を近づけた。
「パパ、お寿司食べたい」
「いいな。回転寿司に行くか」
「行きたい!はんばあぐ!」
「はんばーぐ!」
そして今日も俺は愛する家族と共に回転寿司に行くのであった。
初手はもちろんハンバーグとなんこつの唐揚げだ。
私の初手はフェア商品の中から脂が乗ってそうなものを選びます。




