僕らの夢
大学ではない、映画館で待ち合わせした二人。街の営みの中で起きたなんてことないシーンだけど一生記憶していたいと思った。
「こんにちは」
「こんにちは」
片言みたいなあいさつ。同じタイミングで笑い口元に手を近づけていた。
昼にするには少し早かった。太陽は昇り続けている。
街を歩きながら話し出した。
「よく同じ授業取ってるよね」
「確かに」
彼女の視界には入っていないんだろうなと思ってたけど、彼女は気づいていた。脈拍は上がっていた。
「大学には慣れた?」
「そうだなぁ、だいたいは」
だいたいって何だよ。頭をフル回転させて出てくるアドリブは時折おかしかった。
「卒業したらやっぱりデザイン系に行くの?」
「んーどうだろう。行けたら行きたいけどな」
「周りのレベル高いもんね」
「わかる。世界って広いなって思った」
「わかる」
わかり合った瞬間、彼女に通じているのは確かだった。
目的地は特になく、歩いていて気になった店には入った。彼女が好きと言ったものは全部正解に見えた。彼女の全てが正解に見えた。
「休みの日は何してるの?」
横を歩く彼女が訊いてきた。
「映画見たりとか」
ほんとはそれ以上に話を書いている時間の方が長かった。
「大学を出たらしたいこととか決まってる?」
「特には……。鈴木さんは?」
「歌で食べていけたらいいなとは思ってる」
そう語った彼女は少し下を向いて笑っていた。顔を上げた瞳は透き通っていて、真っ直ぐこちらを見てきていた。彼女が前を向く前に目をそらしそうになった。
僕らの共通項の一つとして音楽が好きだった。彼女は聴くだけでなく歌うのも好きだった。よく歌っていた。教室にはギターを持って来ていることが多かった。
ギターを弾ける彼女は曲も作っていたという。
カラオケでは歌声に浸っていた。自分も聴くだけでなく歌うことも好きになっていった。
高校を卒業したあと、ギターを担いで遠く離れた場所から大学のあるここに上京してきた。アルバイトをしながら大学に通っていた。曲を投稿し、通行人が行き交う路上で歌っていた。彼女のことを好きだしリスペクトもしていた。この星にただ一人の歌声とメロディーを奏でられる彼女は強かった。
「そういえば何のアニメ見てたんだっけ?」
思い出したように彼女が言ってきた。
あの教室では言えなかったタイトルを伝えた。
「それわたしも好きだよ」
微笑みに僕の頬が赤く染まっていたのはきっと夕焼けのせいだ。




