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花ヨ、終焉ヲ告ゲヨ。  作者: 黒雨 のゆ
第一章 影と光の狭間に
9/9

最終幕 その空に誓う

__夜明け前。


石造りの窓の外、闇に包まれた北の空がわずかに白み始める。

柚木は、三人に導かれて星の塔の地下の静かな間へと通されていた。

「ここ、久しぶりに来たな。」

「弥生と瑞稀はあまり立ち入ってないよね」

「うん、初めてに等しいぐらいかも。」

薄暗い階段をゆっくり降りていく。

ここには窓もなく、頼りない灯りが壁に規則正しく並んでいる。


「この学苑に着く前、空気が薄くなるのを感じたでしょう?」

独り言のように呟く詠蓮に対し、弥生と瑞稀は静かに口を閉じている。まるで詠蓮と柚木の二人だけの空間かのように。


「あれはこの鍵を守るため、私たちクロユリがこの花びらを蒔いた。この花びらは、一時的にその地を廃れさせることが出来る。そして、人に蒔けば邪悪化する。蒔いた量、蒔いた規模が大きければ大きいほどその力は偉大になる。」

「……どうしてそんなこと」

詠蓮はその花びらを眺めながら淡々と続ける。

「私たちクロユリは立ちはだかる存在だから。……覚えておいて。この花びらは地方によって、力が異なる。北地方は空気が薄くなる作用があったけど、他の地方はわからない。」


詠蓮は空に手をかざす。するとゆっくりと足元から古びた祭壇が上がってくる。

そしてその中央には__

北の鍵と呼ばれる、淡い青に輝く結晶が静かに浮かんでいた。

「これが、北の鍵?」

「そう。”北の記録”の象徴。星を信じ、従ったこの地全ての”記録”が、この中に封じられている。」


「っ…」

「けれど今、この星の理は”君”を新たな記録の主と認めた。ならば、私たちはこの鍵を”未来に託す”べきだと。」

瑞稀は目を見開き、詠蓮の肩に手を置く。

「…いいの?本当に。この鍵を守るために、私たちは…」

詠蓮は瑞稀の頭を撫でる。

「…分かってる。でも、もう私たちが持つべきものではない。本当はこの先の記憶も記録しておきたかったけど、この結晶はもう……ここに留めておくべきじゃない。」

「詠蓮が決めたことだ、瑞稀。俺たちがどうこう言うべきじゃない。」

そして詠蓮は手をかざすと結晶は浮き、周りから星々が集まり鍵となる。そして柚木の胸元へ吸い込まれるように動き、優しく輝いた。

セラテルがそっと呟く。

「……一つ目だね。君の旅が、確かに始まったんだ。」

__

詠蓮は、静かに柚木の前に立つ。

「柚木君、私はあなたの言葉に、惑わされた。」

「え?」

祭壇に手を置き、伏目になりながら話を続ける。

「信じてきたものを否定されることは恐ろしい。私はずっと”星”という秩序に救われたつもりでいた。けれど、あなたの姿を見て思ったの。救われたかっただけで、何も信じていなかったんだって。」

「そんな…俺はただ、自分が間違ってたとしても、誰かの選択を守りたくて……!」

柚木の言葉に弥生が笑う。

「だからこそ、お前は選ばれた。柚木。」

「…私たちは誰かの希望になれると信じて、ずっと詠蓮についてきたけど、後悔はしてない。私たち、二人にとって正しい選択だと思ってる。君は誰かに流されることなく、自分で希望を選んだ。それだけで十分。」

柚木の目に、熱いものが込み上げた。

この世界の誰かに、選ばれたわけじゃない。

けれど、自分が”選んで”歩いてきたことは、誰かを変えたのだ。


詠蓮は、夜明けの光に照らされながら最後にこう告げた。


「………この先、どれだけ星のない夜を歩くことになろうとも。あなたなら”光を灯せる”と信じてる。」


_____


星の塔を出る頃、夜が完全に明けていた。

凍てつく風が頬をかすめる中、柚木はふと空を見上げた。

そこには、誰かに決められた星ではない、ただの朝日が昇っていた。

セラテルがぽつりと呟く。

「……君がこれから向かう地方には、それぞれ異なる”鍵”と”迷い”がある。けれど、君は”選ぶことを”を忘れなければ、必ず進める」

柚木は小さく頷き、背を向け歩き出す。


「……詠蓮。最後に一ついい?」

「何?まだ”迷い”が?」


「星本室で見た、『泰詠』って人。あなたの兄だったの?」

すると詠蓮は静かに微笑みこう言った。

「ええ。あの人も星を信じた。でも信じすぎた。」

悲しみと優しさが混じった声色が聞こえた。

そんな詠蓮に、柚木は何も言えなかった。

「…行こう。セラテル」

柚木は深い深呼吸をし、一歩前へ歩き出す。

初めてこの学苑に足を踏み入れた時とは違い、空気がとても澄んでいて、冷たい風と共にアネモネの香りを感じる。


門の前に着くと、セラテルの足が止まる。

「僕は他の地方には行けない。星の軌道がないから。ここは星が瞬いていて自由に動けるんだけど、違う地方は…ね」

柚木は目を見開き、何を言えなかった。

「じゃあ…じゃあ、俺はこの後どうすれば…」

そんな柚木とは反対にセラテルは微笑む。

「大丈夫。君ならきっと。想いはたとえ姿を失っても、誰かに宿る。」

柚木の不安を汲み取った詠蓮は再び口を開く。

「次に向かう目的地は、星々が導いてくれるはず。あなたは身を任せるだけでいい。君は選ばれたんだよ。」

「この詠蓮にも、鍵にも託された君ならこれからもきっと大丈夫。」

詠蓮に続き、瑞稀も言葉をかける。弥生はただ見つめている。その目は敵意でも観察でもない、ただ優しかった。

セラテル、そしてクロユリが背中を押してくれている感覚に、柚木は温かくなる。

「ありがとう、みんな。心の中で星たちが導いてくれるなら、1人じゃない。」


すると足元から粉雪のような白光が舞い上がる。光はやがて柔らかく降り注ぎ、眩しさに目を閉じた瞬間、頬に潮風が触れた。耳元では遠くに波音が、寄せては返す。









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