第六幕 星のない者に、光は射すか
審問当日。真理の間にて。
古い星盤が壁一面に描かれたその空間は、他の場所とは異なる静寂に包まれていた。
そこで柚木に向き合ったのは、再び弥生と瑞稀だった。
「どうして君はそんなに抗うの」
瑞稀が問う。
「星が間違ってると、どうして言い切れるの」
「星は…未来を”決める”ものじゃない。”導く”ものならいい。でも、全てを信じるってことは、もう自分を信じてないってことだろ」
柚木の言葉に弥生はつぶやく。
「……俺の妹は、”星の未来”を信じて死んだ。」
唐突に弥生は口を開いた。
「”星がそう言ってるから”って、自分で捨てて、諦めて、それで終わりだった。お前の言葉は、聞いてて腹が立つ」
「この塔の最上階に”星の原型”がある。そこに触れられれば、本当に星に抗えるかどうか、証明できるかもね。」
「……行くよ。証明してみせる。」
最上階へ向かうため、奥の方へと案内される。
左右にはたくさんの部屋が並んでいた。
「…星本室?」
星本室と呼ばれるその部屋にはたくさんの本が並べられていた。
「二人とも、ちょっとここ寄ってもいい?」
「はっ。お前、これから試練があるってのに。もっと緊張感持てよ。」
「ごめん。でも、なんか寄らなきゃいけない気がするんだ。だから頼む。」
瑞稀と弥生は互いの顔を見合わせる。
「っ…はぁ、分かった。早くしてよ?」
セラテルと共に星本室に入ると、あたり一面本が宙に浮いていた。
この中にこの星について、何か分かる資料があるかも知れない。
柚木が見渡しながら歩いている時、セラテルが声を出す。
「柚木、これって。」
セラテルはふと手に取った本を見せる。本の間に挟まれた『学苑の記録』と書かれた古い資料に目を留めた。
その資料に目を通していくと、真ん中に写真が貼られていた。
少年が笑っている。整った顔立ちに、どこか儚さを感じさせる優しさが滲む。
「……この人、詠蓮に似てるね。」
その一言に柚木の胸がざわついた。
その写真の右下には滲んだインクで、”第××星光律学苑生徒・泰詠”という記述があった。
___そして最上階。
かつて”星の理”を見出した者たちの祈りが封じられた、学苑最古の場所。
近づくにつれ柚木は自分の鼓動の音が異様に大きく聞こえるのを感じていた。
瑞稀から渡された『通行書』は、手の中でほんのりと光を帯びている。
「セラテル…ここには何があるの?」
背後を歩くセラテルが、静かに答える。
「”星の原型”__この世界が秩序として従ってきた最初の記憶。星を信じるとは、それを受け入れるということ」
「……それが絶対に正しいって、誰が決めたんだ」
「誰も決めてない。けれど、人は答えを”託した”んだ」
その言葉に柚木はほんの少し眉を寄せた。
”託す”というのは預けた。自分の思いを”放棄”したということ。
階段を登りきると、そこには壁一面に描かれた巨大な星図。
中央には、輝く球体__『星の原型』が浮かんでいた。
柚木が手を触れようとした、その時。
「そこまで。」
音もなく現れたのは、詠蓮だった。
静謐なる威厳を湛えたその姿に、柚木は思わず足を止める。
「あなたは、”答えを持たない者”。星に従わなかった者に、この地の記憶を触れさせることはできない。」
「……どうしてそこまで”星”に縋るんだ。人は、自分で考えてもいいはずだ。」
詠蓮はその問いにすぐには答えなかった。
ただ、足元にある星の線を見下ろし、淡く呟く。
「かつて、私にも”自分で選びたい”と思った瞬間があった。」
「……え?」
「でもその選択が、私の大切なものを壊した。だから私は星に誓った。もう、選ばないと。全てを”示された道”に委ねようと」
柚木はその言葉に、過去の自分を重ねる。
「選んで、間違えたからって、全部を捨てていいわけじゃない。誰かのために間違える事だってある。それでも、生きて選び続けることが、間違いじゃないって、俺は思いたいんだ。」
その言葉が響いたのか、詠蓮は目を閉じ、そっと一歩だけ退いた。
「……それが”あなたの試練”。なら見届けましょう。」
詠蓮が空に手をかざした瞬間、眩い光が周囲を包み込んだ。
「星があなたを”拒む”のか、それとも、”受け入れる”のか」
_____
目を開けるとそこは__星々が並ぶ虚空の中。
人々の選択が、細い光となって交差し、複雑な模様を織りなしていた。
けれどその中心に、一本だけ、何も繋がってない黒い線があった。
「これは……俺?」
触れようとするとどこからともなく声が響く。
「なぜ、選ぶ? なぜ、抗う? なぜ、孤独を選ぶ?」
柚木は静かに答えた。
「俺は……選ばれたくてここに来たんじゃない。”過ちを恐れず人々が自分で選べるように”そう願ってここに来たんだ」
「面白い。 ここでも立ち向かうお前の姿、お前の意志。 初めてだ。」
その瞬間、黒い線が星々と繋がり、全体の模様が一変した。
__星の原型は、柚木の存在を”受け入れた”
光の中で微かに聞こえた声は、まるで”星そのもの”が語りかけるようだった。
「未来は定まっていない。 だからこそ、君のようなものが必要なのだ。」
__
気がつくと、柚木は星の原型の前に立っていた。
セラテル、詠蓮、そして弥生と瑞稀が静かに彼を見つめている。
「……星が君を認めたようだね。」
瑞稀が微笑み、弥生が肩をすくめて笑った。
詠蓮もまた、初めて安らいだような表情で呟いた。
「………ならこれを。この地の”理”を破った、あなたにこそ。」