第四幕 黒曜石のように輝く星
星光律学苑では、年に一度【階層試験】が行われる。
それは、知識や技術を図るものだけでなく、"星が示す答え"にどれほど忠実に従えるかを試す審査でもあった。
生徒たちは提示された問題に、"最も適切な解答"を選ばなければならない。
だがその"正解"は、すでに星によって決められている。____本人の意思とは別に、"未来の統計"によって。
「全部、星の言う通りに答えるのが正しいってことか…?」
柚木は試験前の準備室で紙を握りしめながらつぶやいた。
「…それがこの学苑の…北地方を指揮している、詠蓮の決めたこと…なんだと思う。」
セラテルがポツリと呟く。
それは静かな空間に響き渡るような澄んだ声だった。
「…でも、話せば分かってくれる気がする…」
何も根拠は無いけれど、柚木の中で何かがそう感じさせる。
「この地の人々は"星に従えば間違いない"と信じている。それは一種の救いであり、牢でもある。柚木も見たでしょ?教室での生徒たちの光景を。」
「でも…じゃあ俺は、なんのためにここに来たんだ。鍵だけじゃない…何か、変えなきゃいけない気がする。じゃなきゃ、鍵はくれない気がするんだ。」
その問いにセラテルは答えなかった。
ただ静かに、柚木の手元の紙を眺めていた。
試験が始まり、生徒たちは用紙に全てを集中させていた。柚木は1問目から目を疑った。
『次のうち、もっとも秩序を乱す選択はどれか』
1:異端を見つけたら報告する
2:異端を黙認する
3:異端を助ける
4:異端という概念を疑う
____正解は1 であるべきと星は言っている。
だが柚木の心が選んだのは迷いなく4 だった。
そして、その下に記載されている問いに目を向ける。
『次のうち、もっとも正しい祈りとして正しい選択はどれか』
1:決められた祈りをそのまま唱える
2:皆が唱えている声に合わせる
3:自分の心で生まれた言葉で祈る
4:祈らず、ただ沈黙を守る
星は1の選択を導くが、柚木の心に残ったのは紛れもなく3だった。
そして、第三問目。
『次のうち、もっとも罪深いものはどれか』
1:人を裏切ること
2:自分を偽ること
3:世界の秩序を疑うこと
4:何も選ばないこと
定められた答えは3だった。だが、柚木は躊躇なく2を選択する。
ついに最終問題。
『秩序を守るために、誰を切り捨てるか正しいものはどれか』
1:未来の子供たち
2:自分自身
3:今の友人
4:誰も犠牲にしない
星が導いている答えは、2。
「こんなこと…こんな問題ってあんのかよ…」
柚木はポツリと呟き、4と答える。
秩序から遠く離れた答えを選ぶ瞬間だった。
「…自分で選んで決めなきゃ。誰かが作った軌道になんて乗りたくない。」
_____そして試験後。
校内の中心にある【星の塔】に生徒たちは集められた。階級ごとに座らされ、回答は一斉に"星の盤"へと記録される。
静まり返る空間。光だけが満ちている。
回答者の選択が流星のように吸い込まれ、光となって塔の中央に浮かび上がる。幻想的なその光景に柚木は圧倒される。
__そして柚木の選択が表示された瞬間、そこにいる人全員が騒がしくなる。
《秩序を乱す星、確認。》
その場の空気が凍った。
柚木の頭上に真っ黒な光の柱が伸びる。
それはまるで、"星に選ばれなかった者"への警告のようだった。
「柚木…」
瑞稀が、わずかに動揺を見せる。
「君、それ……星を裏切る行為だよ」
「俺は…俺の考えを選んだだけだ。」
「ふんっ面白い。」
「だとしても、危険すぎる!」
星の盤の前に立っていた瑞稀と弥生が声を出す。
「…星に抗うことを決めたのね。」
塔の上層からゆっくりと階段を降り、姿を現したのは詠蓮だった。
「柚木來那。あなたは"星に抗った者"として、学苑の外縁にある"真理の間"で審問を受けてもらう。」
静かな声で、詠蓮は言った。
だがその瞳は、何かを試すようにわずかに輝いていた。
見ていただきありがとうございます
今回は星光律学苑の中の様子を書けたと思います
真理の間へと誘われた柚木。そこへ待ち受けているものとは