最終幕 光は渡さない
辺りが静まり返る。
白い光から現れたルシェル。柚木は、あの頃のように怯んだ姿をルシェルに見せることはなかった。柚木にとって、背後にはたくさんの試練を乗り越え、初めは恐れられていたあのクロユリたちの面々が柚木の精神を支えている。
空気が澱み、空すらも息を潜めるように動かない。空間が、どこか閉ざされているようだった。
ルシェル「お久しぶりですね。……あぁ。そして、クロユリの皆さん。」
柚木「……ルシェル…」
柚木の呟きに、ルシェルは三日月のように口角を上げた。
ルシェル「…さぁ、こちらに。」
ほほぅ?と首を傾げたルシェル。だが、その雰囲気は何か柚木たちを見透かしたように焦りなどは見られなかった。
柚木「ミカロスに会おう」
柚木は短くそう言った。セラテルが小さく頷く。
りん「柚木の中にある“記憶”が導いているのなら、もう迷わないで」
その言葉に、りんも歩み寄ってきた。瞳には迷いがない。
りん「前は……伝えたかった。でも、言えなかった。__柚木信じる道が、きっと正しい」
柚木「うん、ありがとう。今回は……伝わったよ」
神殿の最奥、白い扉を押し開けると、そこには光の中で眠るように佇む存在がいた。
それは、ミカロス。
この世界の守護神であり、クロユリがかつて蘇らせようとした“救済の象徴”。
柚木はポケットから、五つの鍵を取り出す。
柚木「これが、俺たちの旅の終わり。そして、始まりの鍵」
五つの鍵がミカロスの封印されている祭壇に捧げられ、空が輝く。そしてミカロスのまわりを舞うように円を描いた。
その瞬間_空気が一変する。
柚木「……目覚めろ、“ミカロス”。そして……真実を告げて」
ミカロスの身体が、青白い光に包まれる。
その光の中で、誰もが祈るように見守った。
しかし
りん「柚木。離れて!」
突如、りんが叫ぶ。
「……っ……く、あ……」
ミカロスの頭上に、黒い輪が浮かぶ。
その瞳には、苦悶のような色が宿っていた。
セラテルが叫んだ。
セラテル「おかしい!これは、正しい“神の目覚め”じゃない!」
柚木「なぜ……?」
柚木が思わず声を漏らすと、背後から聞こえた声があった。
りん「“ルシェル”の力か?」
その声は、いつになく冷たかった。
あの“終焉”が、再び目を覚まそうとしていた。
ルシェル「実はですね。柚木さんをず〜〜っと見てたんですよ。あっちの世界でもね?ふふ」
甘虎「ミカロスは……ルシェルに“操られている”。おそらく、前に鍵を渡した時に、器の中に“干渉”されてしまったんだ。」
柚木「じゃあ……!」
柚木は、震える手を握りしめた。
ミカロスの身体から、異質な“黒”が滲み出していた。それは以前、柚木が黒いモヤに包まれた時と同じ――ルシェルの力だった。
『ああ、やっと……揃った。お前たちの“祈り”も“希望”も、我がすべて喰らおう』
ミカロスの瞳が開かれた。けれどそこにあったのは、神の理ではなく、闇の命令だった。
詠蓮「嘘……ルシェルが……ミカロスを……!」
彼方「騙したのか、最初から……っ!」
怒りと恐怖、そして決意が交錯する。
そこで、りんが小さく息を吐いた。
少しの間、迷うように目を伏せ__やがて静かに口を開く。
りん「……柚木。君は知らないだろうけど__」
その瞳が遠くを見て、どこか懐かしさを滲ませる。
りん「ミカロスは、僕たちクロユリにとって……ただの神じゃない。かつてこの世界で、異端や弱き者を唯一、救おうとした存在だった。この国で迫害され、笑われ、居場所を失った者たちに……“生きていていい”と、初めて言ってくれた人。」
クロユリの面々が静かに目を伏せる。
誰もが、その時に与えられた温もりを胸の奥で思い出しているようだった。
りん「僕がクロユリを作ったのは……あの人の背中を追ったから。もしあの人が生きていれば、きっとこの世界は変えられた。だから……もう一度、蘇らせたかったのよ。」
りんの声はわずかに震えていた。
けれど、その瞳は揺らがず、柚木をまっすぐに見つめている。
りん「柚木が信じる未来が、ミカロスの本来の願いと重なるなら……僕は、僕たちは、その先を見届ける。」
セラテルが静かに呟いた。
セラテル「柚木。……もう、止められないかもしれないよ」
りん「それでもいい。今度は、進んでみせる」
ミカロスの目が、柚木に向けられた。
その一瞬__彼の中に、微かに“本来の光”が戻った気がした。
それは、確かな希望だった。
すると、りんが前へ出て対峙する。
りん「ミカロスは、お前に支配される器じゃない……僕たちが、それを証明する!」
柚木は、もう迷わなかった。
柚木「行こう、クロユリ。これは、僕たちの世界を守る戦いだ!」




