第二幕 記憶の扉
星光律学苑の外れにある、沈黙の図書塔。
星本室とは違った、天井を突き刺すように高くそびえる本棚には、世界に刻まれたすべての「記憶」が眠っていた。
「ここには、“星に選ばれた者”たちの記憶が封じられている」
詠蓮の声が静かに響く。
導かれるままに、柚木とセラテルはその奥へと歩みを進めた。
本棚の間を抜け、開けた空間に出たときだった。
音もなく、闇からふたつの影が現れた。
「来たな、柚木。」
前に進み出たのは、鬼哭 弥生。
その背後に立つのは、雲霧 瑞稀__冷静で、瞳の奥に静かな決意を宿す少女。
「……瑞稀と弥生…?」
「そう。そして“記憶の扉”の番人。ここを越えるには、試練が必要なの」
「試練……」
詠蓮が口を開いた。
「これは、過去と対峙する力を試す扉。君に過去と向き合う覚悟がなければ、星は鍵を託さない」
弥生が微笑んだ。
「でも安心しろ。きっと超えられる。……俺たちもかつて、そうしてここにいる。」
その言葉に、柚木の瞳が揺れた。
「……弥生たちにも、“向き合った過去”が?」
瑞稀は少しだけ視線をそらし、小さく頷いた。
「私を信じてくれた人もいた。けど、守れなかった」
「俺は……」と弥生が続ける。
「ずっと、“誰かのため”に笑ってきた。でも気づいた。誰かの涙を背負って生きるには、俺自身が泣くことを許されなきゃいけない。」
柚木は、彼らの姿に____かつての自分を重ねた。
「……行くよ。俺、自分の過去と向き合う。」
二人は静かに道を開けた。
「ようこそ、“記憶の扉”へ」
⸻
視界が闇に染まり、気づけば柚木は見知らぬ教室に立っていた。
だが、その空気に心がざわつく。懐かしく、痛みをともなう場所。
壁には、写真が飾られていた。
その中央に映る___少年。見覚えのある顔。そして優しげな瞳をしている。
「……さ、朔……?」
扉が開きそこに現れたのは_____笑顔で入ってくる、あの冬間朔だった。
「迎えに来たぞ。早く帰ろう。」
まるで夢のような光景。
柚木はその“記憶の中の朔”を見つめたまま、動けなかった。
東地方で初めて会ったはずなのに、どこか引っかかるような会話をしたことがフラッシュバックする。
柚木の中で曖昧だったものが鮮明になる。
「…俺、朔と昔から……」
「何言ってんの。僕たち、幼なじみだろ?忘れちゃったのか〜?ったく。」
慣れ親しんだその空間に居心地の良さを感じる。
(俺……こんなに、あたたかいものを、失っていたんだ……)
そのとき、背後から声がした。
「君は、なぜこの世界に来たの?」
セラテルの姿もなぜかこの記憶の空間にいた。
「……誰かを守れるようになりたかった。誰かを、失わないために……」
朔の笑顔が、優しく微笑む。
「柚木。君はもう、立派に“誰かの希望”になってるよ」
胸の奥で、何かがほどけていく。
だが次の瞬間、教室が崩れ、柚木は闇に落ちた__




