第三幕 真実が夜を照らす
数日後。
学苑内では、定期的に「星の更新」が行われていた。
生徒たちは星の階級を上げるため、必死に課題をこなしていたが、柚木にはそれが”正しさ”とは思えなかった。
無言で教科書に目を通し、教師の言葉に頷くだけの生徒たち。
感情を捨て、ただ星の示す”理想の生徒像”を演じるように__。
セラテルは不安そうに柚木を見つめる。
「大丈夫?」
柚木は頷き課題を書き進める。
「余計なことは考えない方がいいよ。」
授業が終わり、別の教室へ向かう途中、誰かの声に柚木が振り向く。
そこには再び瑞稀と弥生がいた。彼女は笑っていたけれど、どこか冷たさも宿していた。
「なんで二人は柚木に執着するの?」
セラテルの純粋な質問に二人は目を合わせる。
「好奇心。とでも言っておくか。」
「君が星に抗うのか、従うのか…近くで見てみたくて。」
星の光に照らされた二人の口元は笑っていた。
そして鋭い眼差しで柚木を見つめる瑞稀と目をそらす弥生。
「この世界では、星が全て。予測不可能なもの_例えば”感情”や”選択”なんて、混乱のもとでしかないの」
「でも…そんなのって、おかしいだろ。」
「はっ。おかしい?笑わせんな。それが”普通”なんだよ、ここでは。」
瑞稀の隣で鼻で笑いながら話す弥生。
柚木とセラテルは返す言葉を失った。
____
ある夜。
柚木はひとり、学苑内の”星図室”へ忍び込んだ。
天井には無数の光__生徒たちの”星”が輝き、ひとつひとつが記録されている。
その中心には、特異点のようにただ一点、黒い星が瞬いていた。
(これは……俺の星?)
誰よりも曖昧で、定義不要で、分類不要。
けれどその星だけが、星図のなかで”揺れて”いた。
「柚木、あなたには”星がないらしいね。」
静かに声がした。
天上から降りてくるように現れたのは、詠蓮だった。
彼女は微笑んでいたが、その笑みの奥に何重もの感情が隠されていることを柚木は感じた。
「私はずっと考えていた。”運命”とは何か、”未来”とは誰のものか__。あなたを見ていると、少しだけ、怖くなるよ。」
「どうして、俺をここに?」
「見てみたかったの。星の外から来た者が、星を受け入れるのか、壊すのか。」
その言葉に、柚木は確信した。
この学苑は 星に従うよう”教育される”場所 であり、そこから外れる者は、静かに”排除”されていく。
__だとしたら、自分は選ぶべき道は一つしかない。
「俺は……”決まってる未来”なんて、いらない。」
詠蓮の微笑が、わずかに揺れた。