第一幕 潮騒の記憶
波音が、耳の奥に優しく響いた。
目の前にはどこまでも青く澄んだ海。そして、その中央に浮かぶ学園。
空に溶け込むような青と白の建物が、陽光に照らされてきらめいていた。
懐かしさにも似た感覚が心の奥に微かに波打っていた。
「正しい流れじゃないけど……ここまで辿り着けた。」
そう答えたのは、隣に立つセラテルだった。
今は自然に柚木の傍らにいる。
確実に流れが変わった。
柚木が、自らの手でループを選んだあの日から。
「今回は、紗也もいる。埜楼も……。だから____」
柚木は自らに言い聞かせるように、一歩を踏み出す。
秩序を重んじるこの学園に、再び足を踏み入れる。
学園の門をくぐると、潮の香りとともにひんやりとした静けさが広がっていた。
廊下を歩いていると、前方から人影が現れる。
「……やっぱり、来たんだな。」
声の主は、湊崎 夜斗。
整った制服を着こなし、真っ直ぐな瞳でこちらを見据えている。
「君の瞳は、何かを知っている目だ。柚木 來那」
その名を呼ばれて、柚木は僅かに息を呑んだ。
記憶は曖昧なまま。でも、前の世界での対話_夜斗の孤独、その優しさ、全てを心が覚えている。
「……また、話したい。夜斗とちゃんと……この世界のこと、人の痛みのことを。」
そう告げると、夜斗は微かに目を見開き、そして静かに頷いた。
「……その前に、紗也のこと。____ありがとう。副官の上にいる四方幹部として礼を言う。」
頭を下げて感謝の言葉を送る。その姿勢からはまっすぐな誠意が見られた。
「…それと、君がセラテルか。……星を導き、新たな星へと軌道を照らす、だったか?」
「……導くものも、導かれながら生きるの。」
何かを擦り合わせるように言葉を紡いでいく二人に疑問を抱く。
「…どういうこと?二人は何を知ってるの?」
「ううん、なんでもない。気にしないで。」
セラテルが首を振りながら何食わぬ顔で柚木を見つめる。
夜斗は踏み込むなというように話を切り替えた。
「そして、この学園には、君のように『覚悟を持った者』だけが入れる部屋がある。
君が何を望み、何を変えようとしているのか___それを、見せてほしい」
セラテルと共に夜斗の後ろを着いていく。
記憶が重なり、心が軋む。
けれど今度は、誰かを失わないために。
柚木は、再び歩き出す。




