第四幕 雲の奥にある記憶
霧がはれると、あたりは厚い雲で覆われていた。
「……ここで、終わらせないっ!絶対に、目を覚させるんだっ…紗也っ!!」
必死に探りながら雲をかき分けるが、厚い雲はそう簡単に消えなかった。
「柚木……彼の“鍵”は、その奥にある。恐れから逃げて閉じた記憶。君がその痛みを抱き締めなければ、彼は“前”に進めない」
セラテルそう助言をした。
柚木は、もう一度雲をかき分け、歩き出す。
痛みを、恐れずに。
「……同じことはさせないっ!!!!!」
ー学苑の雲庭にてー
紗也のまぶたが微かに揺れた。
孤亜が目を見張る。
「紗也……!」
孤亜の声に彼方が駆け寄った。
「紗也がどうした」
「い、今、まぶたがピクって、動いたのっ!」
孤亜はずっと紗也の手を握り、目を閉じて願っている。
「戻ってこようとしている……」
彼方も、空を見上げて呟く。
_____
分厚い雲を掻き分け続け、遠くに人影が見えた。
柚木は必死にその影に近づこうと無我夢中で追いかけた。
その影に近づくにつれ、足場がどんどん不安定になっていく。
それでも必死に足場を蹴る。だんだんと濃くなっていく影。
「っ、紗也っ!!!」
その瞬間。
「__柚木くん……?」
小さな、けれど確かな声が、紗也の唇から動いた。
「た、助けに来たっ、早く手を掴んで!!」
紗也は手を伸ばすが、後少しのところでてを引いてしまった。
「な、なんで……」
「………ぼくは…救われるべきじゃない気がするんだ……。」
「な訳ない!!」
紗也は驚き、目を見開いた。
「紗也!君は埜楼と約束したんじゃないの?ずっと一緒って。……紗也がここに閉じこもってる間も、埜楼はずっと君を心配そうに気にかけていた。俺がこの地方に行く時も、紗也の様子を見て来てくれって。…紗也も本当はここから抜けて、クロユリたちと、埜楼と一緒にいたいんじゃないの?」
紗也の目に涙が浮かぶ。
「……うん、ぼくもみんなといたい。埜楼といたい…でももう無理だよ……」
「大丈夫。きみには受け入れてくれる、素敵な仲間がいるじゃないか。」
「っ………うん」
もう一度手を差し伸べる柚木。そして応えるように涙を流しながら手を取った紗也。
そしてその瞬間光に包まれた。
柚木は霧の中から、現実へと戻ってくる。
目を開けたそこに、確かにいた。
紗也が___目覚めて、彼の名を呼んでいた。
「紗也!」
駆け寄り、彼の手を強く握る。
「…柚木くん……僕……」
彼の目から、涙が一粒こぼれ落ちる。
「紗也、柚木!!」
彼方の力で雲の上へと飛んできた彼方と孤亜が2人に駆け寄る。
心配と安堵の入り混じった表情で問いかけた。
「紗也大丈夫?柚木も怪我してない?」
「孤亜くん、ぼくは大丈夫。……また、みんなといたい。いてもいい?」
「もちろんだよ、紗也。」
孤亜が涙を流しながら二人に寄り添い、彼方は通信機に伝達していた。
「……紗也が、目を覚ました。また、あの時みたいに笑い合える。……埜楼、紗也はもう大丈夫だ。」
「戻ってきてくれたんだね……紗也…」
紗也は優しく微笑んだ。
「ただいま…ぼくはちゃんと、“ここにいる”」
紗也は地に足をつき、笑顔を見せた。
「……これで大丈夫。もう、何も奪わせない」
雲の上で、初めて吹いた風は
過去ではなく、これからを運んでいた。




