第三幕 霧の中に見えたもの
そして次に目を開けた時____
そこは、校舎だった。
古びた教室、窓から見える花壇。遠くから廊下を走る音が聞こえてくる。それと同時に聞こえてくるのは、幼い声。
「紗也〜?…………あ、いたいた。」
埜楼の声だった。
柚木が振り返ると、そこには少し幼い頃の紗也がいた。
桃色の髪に澄んだ瞳__何もかもが、彼の記憶のままの姿だった。
「……これは、昔の……俺の記憶……?」
「ううん。これは紗也の記憶だよ。きっと、こうやって対象の人に懐かしさを思い出させて自分自身を消えさせないようにしてるんだね」
セラテルの声が背後から届く。
「そしてここは彼の中にある、“埜楼との日々”を閉じ込めた記憶の雲。ここで彼の本心を見つけなきゃ、救えない」
柚木は再び二人に目を移す。
「まだ座ってるの?もう帰ろう?」
「…うん、そうだね、帰ろっか。」
紗也の曖昧な返事に、埜楼は何かを抱えていることを察したのか、隣の席に座る。
「なんかあった?その様子、考え事してる。」
「…やっぱ分かっちゃうか。」
「ずっと一緒だし。それくらい分かる。……で、どうしたんだ?」
紗也は、幼い姿のまま笑う。
「えっとね、埜楼。ぼくね、ずっと……君が羨ましかったんだよ」
「……え?」
「優しくて、でも自分を責めてばかりで……。それでも人を見捨てない。ぼくの方が、ずっと弱かった」
「違う……そんなこと……」
「僕 ぼくはね……埜楼が好きだった。だけど、君の“痛み”まで受け止めるのが、怖かった」
「……紗也…おれは…ずっと一緒にいれればそれで…」
いつにも増してか細い声で話していく紗也。
柚木は幼かった頃の2人の会話をただ見守ることしかできなかった。
セラテルは二人の会話を聞いて、小さな声で話した。
「…どんな時でも二人はずっと一緒だった。……ただの幼なじみじゃなくて、もっと深い、互いに想い合ってる関係性だからこそ、紗也の喪失は埜楼にとって、窮地で、苦しかったんだろうね。」
「……互いに想い合ってる……本当にいい関係だね。あの二人は。」
視線の先の二人は、背中をさすり宥める埜楼と、すすり泣く紗也の姿が目につく。
「……紗也。おれはずっと一緒だ。だからそんなこと言わないで。」
そしてその瞬間、二人の声がだんだんと霞んでいく。
紗也の姿が霧の中へと消えようとする。
埜楼も消えゆく紗也と同じように薄くなっていく。
「____待って!紗也!埜楼!」
柚木は手を伸ばす。けれど、その手は空を切る。




