第二幕 記憶の積乱雲
雲が、暗くなっていき雲行きが怪しくなる。
柚木は怖がる事なくまっすぐ目を見つめていた。
「…紗也を救いたいんだ。もう、同じことはしない。」
「……紗也を、救う?」
彼方の言葉は、試すようでもあり、願うようでもあった。
柚木は、真っ直ぐ目を見て頷く。
「前の世界で、紗也は……俺たちの目の前で消えていった。今度こそ、守りたい」
その回答に彼方と孤亜は互いの顔を見合わせた。
「…唯人の言った通りだね。彼方くん。」
「…あぁ。……柚木。本当に一度ここへ来たんだね。」
「うん。……ここに来る前、甘虎と西地方で意思の共有をした。だから、今回こそは出来る気がするんだ。」
孤亜が柚木の頭を雑に撫でる。
「……君みたいな前を向ける子が来てくれてボクたち本当に嬉しいよ。」
慣れない孤亜の手の動きに柚木は恥ずかしさを感じる。
「……俺、紗也を助けてからじゃないと、元の世界に戻ったとしても心残りしそうだし。」
「……なら、俺たちとも "意思の共有" をしよう。」
そして、彼方と柚木は手を触れ合う。
すると一筋の小さな光が掌で輝き出した。
「西地方で何があったかは分からないが、柚木の心を動かしたんだろうな。……光が温かい。」
彼方は瞼を閉じ、そう呟いた。
そして孤亜が近づきそのひかりに手を差し伸べた。
「……ほんとだ。これなら紗也を、ボクたちを、柚木たちそれぞれが願ったものが現実にできそう。」
孤亜も瞼を閉じ、意思の共有の終わりの合図かのように掌で輝いていた光が消えた。
「………これで、君が体験した時空の出来事が、俺たちにも伝わった。」
「…本当に、紗也を失い、唯人も散って、クロユリも倒れたんだ……記憶だけなのに、ボクが体験したわけじゃないのに、こんなにも辛いんだ。」
孤亜は、俯き、普段の陽気な口調とは違い、弱々しい反応だった。
そしてセラテルが後ろからそっと肩に触れる。
「ここに満ちているのは、“空”のような真実だよ。目を逸らさず、雲の奥の記憶を見つけて」
そのとき。
____ザァ……
空気が変わった。
辺りが霧のように白く包まれ、視界が揺れる。
そして、突如空から雨が降り始めた。
その雨は多く、冷たく、柚木たちの視界を奪う。
紗也の寝ていたベッドが、ふと消えたかのように消滅した。
「紗也!!!」
柚木は手を伸ばしたが、間に合わなかった。
あと一歩届かなかった自分に悔しさが募り、拳を強く握る。
柚木の反応とは裏腹に冷静な反応を見せるセラテル。
「……これは?」
「記憶の空間へ、導かれている」
孤亜が呟いた。
「紗也の心が、彼に応えた。柚木。君が呼んだからだよ」
そしてその瞬間柚木の意識は、白の雲の中に沈んでいく。




