第二幕 星の階層をめぐって
学園の中へ案内された柚木は、まるで夢の中に迷い込んだかのような景色に包まれる。
空中に浮かぶ教室、植物の光が灯る通路……
まるで宇宙と自然が融合した空間だ。
「すごい…幻想的だ」
柚木が独り言のように呟く。
「ふん、初めはそう言う。でも後に慣れていく。今は何も感じない。止まってないで早く着いてこい。」
柚木の前を弥生は鼻で笑いながら長い学苑の廊下をひたすら歩き続ける。
「ここは”知識と真理”を学ぶ場所。ってことになってるけど、実は違うんだ。」
瑞稀はポツリと呟く。
「この学苑、星が教えてくれることだけを信じて創られた。」
「星が…?」
「うん、未来も、過去も、可能性も、全部。それが”正しい”とされるここでは、他の考え方は”異端”なんだ。」
「東地方の、あの閉鎖性がここにもある。」
__柚木は肌でそれを感じる。
そのまま柚木は中央星殿へと足を踏み入れる。
そこには、静かに星図を紡ぐミントグリーンと黒の髪色の人物_玄花詠蓮がいた。
彼女の髪色は半分に分かれていて、まるでもう一つの夜空を映しているかのようだった。
詠蓮が纏っている漆黒のマントは瑞稀と弥生とは違い、首元にはファーが付いている。
目を閉じながら星に祈るような姿は、神の巫女のよう。
「…柚木來那。君に見せたい星がある。」
「俺に…?」
その声に導かれ、一歩ずつ光の中心へ近づいていく。
「あなたは、”未来の裂け目”から来た子。けれど私には見える……あなたの心が、まだ”自分の在処”を探していることが」
「…!」
瑞稀と弥生は静かに詠蓮の後ろに付く。
その光景は北地方に眠る鍵を守る幹部そのものだった。
「星は告げる。__”真理を灯せ”と」
そして詠蓮は静かに目を開き、柚木の目をまっすぐ見つめた。
そこにあったのは、未来を試そうとする者の__強い意思だった。
星の光が常に降り注ぐ北の学苑は、そのまま一つの「世界」だった。
建物たちは浮遊する本のように層をなしており、「星の階層」と呼ばれるその構造は、知識・魔力・精神の段階に応じて生徒たちが配置されるという。
「瑞稀、弥生。彼を案内してあげて。私はまだやることがあるから。」
「了解。任せて。」
星殿の螺旋階段を登り闇の中へ消えていった詠蓮。
「お前はこっち。」
弥生は星殿の奥の扉を開け、柚木は下層の寮室に案内された。
「この学苑じゃ、星の評価で住む場所まで決まる。君みたいな”来訪者”は、まずこの辺からスタートってわけ」
そう言ったのは瑞稀だった。
金色の髪に澄んだ声、けれど感情の読み取りづらい笑顔。
「ねぇ、君は自分の”星”が何色か知ってる?」
「星…?何のことだ?」
「この学苑ではね、一人ひとりに”運命の星”が観測されてるの。性格、行動、思考傾向…全部が分類される。もちろん未来も。」
柚木はゾッとした。
未来が決まっている。星によって、全てが”管理”されている。
それは……南地方で見た「空への憧れ」にも似て、だけどまるで逆のようだった。
「瑞稀、あんまりネタバラシすると面白みがなくなる。」
と、割って入ったのは弥生だった。
だが、柚木と目を合わせようともしない。
「詠蓮が言ってた。”外の者”は、いずれ星に飲まれるか、星に抗うか、そのどちらかだって。」
「君はどっちになると思う?」
答えられなかった。
自分の運命が、誰かに決められているなんて。
___そんなの考えたくもない。