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花ヨ、終焉ヲ告ゲヨ。  作者: 黒雨 のゆ
第七章 仮死の彼岸に咲く花
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第一幕 記憶の雲の、その向こうへ

空が、近い。


天に届くように高く築かれた学苑。その頂に立ち尽くし、柚木はゆっくりと空を見上げた。

あの戦いのあと、彼はセラテルに願った。

「__やり直したい」と。

すべてを救うために。今度こそ、自分の手で。


「……ここ、は……」

目の前に広がるのは、雲に包まれた幻想の南地方。

風が柔らかく頬を撫でる。だが、胸の奥は強くざわめいていた。


「……遅れると、また失うことになる」

自分の声に自分で鼓舞するように、柚木は歩き出す。

ここには彼がいる。

真中 紗也___

前の世界で魂を喪った、埜楼の大切な幼馴染。

今度は守る。何があっても。


「紗也はまだ記憶を失ってる。でも……間に合うはずだ」

背後から、ふわりと光が舞った。

「……やっぱり、来たんだね」

振り返ると、そこにいたのは__セラテルだった。

「セラテル……良かった。南地方も星の流れが……?」

「うん、ここに導かれたんだよ」

その声音は変わらず穏やかで、どこかすべてを知っているような響きを持っていた。

「紗也を救いたいって、君の願いが強かったからね。」

セラテルの目は、何かを越えた者のように澄んでいた。

柚木は言葉を失い、やがてそっとつぶやいた。

「ありがとう、セラテル。……一緒に、紗也を救おう」

「うん」


風が、白い羽のように空を流れていく。

その向こうに、彼はいる。

柚木とセラテルは風に身を任せ、宙に浮いた。


_____南地方の学苑、空庭にて。

「…あれって…?」

遠くに佇むのは、白銀の雲のベッドで眠る紗也。

そのそばで静かに佇むのは、学苑を統べる者___朱央彼方と、変幻の能力を持つ者、東堂孤亜。


 

「……記憶は、まだ戻ってないよ。」

孤亜が冷静に報告する。だがその眼差しには、わずかな不安が見え隠れしていた。

彼方はその言葉にただ頷く。

「でも……このまま、何も思い出さない方が、幸せなのかもしれない」

「けど、それだと彼は“扉”を開けられないし、"あの世界"から来た彼も帰れない。」

孤亜の言葉に、彼方は黙する。

その“扉”____紗也の心に刻まれた、記憶と鍵。

それがなければ、彼もこの世界も救われない。


「…セラテル、彼方と孤亜の所に行こう。」

「うん。」

「…彼方!孤亜!」

風に乗って届いたその声に、彼方と孤亜が振り返る。

そこに立っていたのは___柚木とセラテルだった。


 

彼方の目が細まる。

「……君が、柚木來那だな?」

「うん。……彼を救うために来た」

その眼差しに迷いはなかった。

彼方はゆっくりと歩み寄り、柚木と対峙する。

かつてはただの旅人だった柚木の中に、明確な意思と覚悟が宿っていた。

「彼とは、誰のことを言っている」

柚木はしばらくの沈黙の後、口を開く。

「…紗也。真中紗也。」

「…なぜ彼を知ってる。君はここに初めてきたはず。誰かに聞いたのか?」


孤亜が柚木を見る。

「知ってるの…?紗也ことを。」

「……うっすらと。でも、大切なことは忘れていない。紗也が、ここで……消えたことも」

沈黙が流れた。

やがて彼方は、ふっと微笑みを浮かべる。


「なら証明するんだ。柚木來那。今度こそ、彼を救えるというなら___この空の試練を越えてみせろ。」

雲が渦を巻く。それはきっと物語が再び動き出す合図だと感じた。

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