最終幕 再選択の果てに
試練を越え、庭園に戻る途中誰一人として口を開ける者はいなかった。
だが、その沈黙を破ったのは唯人だった。
「そういえばさ、柚木のその友達って、どんな人なの?」
柚木は幼稚園の頃の記憶を思い出し、曖昧な記憶をパズルのように埋めていく。
「…幼稚園の頃のことだから、曖昧なんだけど…その子、あんまり誰かといるイメージなかった。でも、俺とだけ一緒にいてくれて、たくさん話もしてくれた。俺、小学校行ったのって、その子が転校した後だったから、今はもうどこにいるのかも分かんないけど」
「そいつ、結構な一匹狼みたいだな。群れを作らないってさ。」
埜楼が頭の後ろで腕を組みながら返事をする。
「そんな人が柚木に花をあげるくらいだ。相当君といて楽しかったんだろうね。その友達も。」
振り向く事なくまっすぐ歩く甘虎の背中は嫉妬や嫌悪などなく、安心したような、優しい雰囲気を出していた。
「俺、いますごく、その子に会いたいんだ。そして、もう一度その子と話がしたい。」
埜楼は顔を覗かせ、興味本位で問いかけた。
「ねぇ、その友達って名前なんていうの?唯人が鏡で見せてくれるかもよ」
「……灰牙…宵。って言うんだ。」
「灰牙、宵?」
いつも優しい声色をしていた甘虎の声が低く聞こえた。
「…唯人、鏡で見れたりしない?今の宵くん。」
「……あぁ…ごめんね。それは見れないんだ。名前一緒の人なんてたくさんいるし…」
歯切れの悪い唯人の反応に柚木は顔を顰めた。
甘虎の反応といい、唯人の回答。……柚木は違和感を感じた。だが、空気の悪さを中和させるかのように埜楼が口を開いた。
「…まぁ、そりゃあそうだよ。灰牙宵くん?だっけ。こっちの世界に来てたら言っとくよ。柚木が会いたいって言ってたって。」
「………うん。ありがとう。」
柚木はその違和感を口にせず、心にしまうことにした。
そして青い薔薇の咲く庭園の中央に着くと、甘虎が青と白の結晶のような鍵を手に光らせた。
「…………この鍵は、もう誰かを試すためのものじゃない。
未来を託せる人に預けるための“印”だ。……君になら、それを渡せる」
柚木は両手でそれを受け取る。
「ありがとう。……絶対に、みんなの願いも、守ってみせる」
甘虎は頷き、空を見上げた。
「あいつは、誰かが信じてくれることに一番救われる子だから。」
埜楼は、心配そうに柚木の方に手を置いた。
「"絶対"紗也を助けてくれよ。」
「_______二度も同じ目には遭わせない。だから、今回は力を貸してくれないか。」
柚木は不安気に、でも力強く三人の目を見つめる。
唯人は苦笑いしながらも柚木にこたえる。
「もちろんだよ。俺も、死にたくないしね。笑」
その光景を一歩後ろで見ていたセラテルがそっと呟いた。
「少しだけ、未来が変わり始めたよ」
柚木は微笑んだ。
「うん。……今度は、間に合うかもしれない」
「絶対、成功させようね、柚木。」
柚木はこくりと頷く。
「_____柚木。」
甘虎が呼びかけ、振り向くと三人が手を振っていた。
「またあとで。」
「うん。また、あとで。」
柚木とセラテルを包み込むように天井から降る金色の光は、どこか色あせて見える。花の香りはほとんどなく、代わりに風の匂いだけが残る。目を開けると、見覚えのある高所の空が広がっていた。




