表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
花ヨ、終焉ヲ告ゲヨ。  作者: 黒雨 のゆ
第六章 かつて閉ざされた扉
37/54

第四幕 柚木來那の起点

霧が晴れ、目を開けるとそこは、まだ彼が“異世界に来る前”の現実世界の病院だった。

白いカーテンの向こうで、無機質な心音が鳴る。小学三年生頃の柚木はベッドに座り、ただ窓の外の空を見ていた。季節のわりに冷たい風が、少しだけ開いた窓から忍び込んでくる。

その風と共に花瓶に咲いている青い花が揺れている。

『……また、ひとりぼっちだ』


その呟きに、誰も応える者はいなかった。

小学六年生まで柚木は長い入院生活を送っていた。身体が弱く、普通の学校に通うことすら大変だった彼にとって、日常とは “誰かと同じ時間を生きること” ではなかった。

誰かに認められることも、必要とされることもなく。

ただ、誰にも迷惑をかけないように、小さく呼吸をして、生きていた。


そんな彼にとって、唯一の楽しみがあった。

「來那〜!来てやったぞ。このオレが!」

『…今日も来てくれたんだね。宵くん。』

灰牙 宵(はいが よい)。幼稚園の頃に仲が良かった友達で、毎日のように話をしている、柚木にとって数少ない友達だった。

「今日も、いっぱいおもしれえことあったから來那に教えてあげるよ」

宵は、学校で起きたことを柚木に目一杯話をしている。柚木も自分は体験できていないことを聞くのが楽しく、目を輝かせて相槌を打っていた。

「……うぁ!やっべえ。もうこんな時間!じゃあまたな〜!」

「うん、またね!宵くん」

_____だが、その"また"は来なかった。

会ったら話したいことがたくさんあった柚木は、深淵に落とされたような感覚になった。

心の拠り所だった宵に会えない。

柚木が退院した日も、その日以降も宵と会うことはなかった。学校も転校したらしく、今も会えていない。


「……君も、ひとりなんだね」

その言葉を返してくれる声が、ある日を境に消えた。

それが、柚木の心にぽっかりと穴を開けた“喪失”だった。

_______


「俺は……誰かの力になりたかっただけなんだ」

再び現在に視界が戻ったとき、柚木は無意識に呟いていた。

彼が埜楼に惹かれた理由。それは、その瞳に「昔の自分と同じ孤独」が見えたからだった。

過去の柚木は、助けられなかった。けれど、今なら___この手で、誰かを救えるかもしれない。

それが“異世界に来た意味”なのだと、柚木はようやく気がついた。


「……おかえり、柚木。」

甘虎が、ぼんやりとした柚木の意識に優しく声をかける。

「…ちゃんと生きて帰って来てくれて良かった。」

埜楼は柚木の服についた花びらをとる。

その花びらを不思議そうに唯人は見つめていた。

「……その花…ネモフィラ?西地方にはネモフィラなんて咲いてないけど。」

柚木は病室の光景を思い出す。あの時、あの場所で確かに青い花はそこにあった。

「…青い花ならさっきあった。記憶の中に。俺の友達が、見舞いの時に持ってきてくれてたんだ。」

その会話を聞いていたセラテルが小さく呟いた。

「どこにもいない者…成功…」

「…ネモフィラの花言葉。その友達は柚木の退院を願ってくれていたんだね。」

柚木は甘虎のその言葉に、宵が見舞いの日、何故必ずネモフィラを渡していたか本当の理由を知り、宵に会いたくなる衝動に駆られた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ