第二幕 壊れゆく心
「ついてきて。埜楼がいるところに案内してあげる。」
神殿の奥へ歩いていく。かつて来たはずの道が、蔦だったはずのものが奥へ進むにつれ茨のようなものが道を阻む。
唯人が立ち止まり、柚木とセラテルに真剣な眼差しを向ける。
「足元、気をつけて。西地方にいるクロユリが持っているこの"花びら"は拒絶を感じると鋭い草木を生やす。____つまり、きっとこの先に埜楼がいるはずだ。」
神殿の奥、かつて記憶を映す祭壇だった場所。
そこに一人、座り込むようにしている影___埜楼。
「……唯人。ここに誰も連れてくるなって言ったよな。」
低く、かすれた声。それでも柚木にはわかった。唯人がすかさず宥めるように答えた。
「ごめんね。でも、どうしても、彼の話を聞いて欲しくて。今じゃなきゃダメなんだ。許して埜楼。」
「埜楼……!」
柚木がその名を呼ぶと、一瞬、彼の目が揺れた。
だがすぐに、それは冷たい仮面に戻る。
「____やめてくれよ。」
胸を締めつけられるような痛み。
それでも、柚木は近づく。
「君は、あの時と同じ。……だけど、違う未来にできるはずなんだ。」
何も思い出せないはずの埜楼が、一瞬だけ眉をひそめる。
「……“あの時”……?」
そのささやかな疑問の種が、未来を変える鍵になると、柚木は信じていた。
セラテルは、神殿の外で空を見上げていた。
「……やっぱり、変わってる。今度は、“鍵”が揃っても、違う選択ができるかもしれない」
セラテルの言葉は、誰にも届かないけれど、隣に咲く青い花が、静かに揺れていた。
「……おまえ、誰だよ」
その目はまだ曇っている。だが、確かに何かが引っかかっているようだった。
「埜楼、君は……俺と一度会ってる。」
「はあ?…何言ってんだよ。」
「君は、紗也を守ろうとして……そして、失ってしまった」
沈黙が落ちる。
埜楼の拳が、ぎゅっと握られた。
「なに……それ、どういうことだよ……おれは知らねぇのに、なんでおまえが」
「埜楼……君が紗也を想っていたこと、心から信じてる。そして、君の心が壊れたのは……“壊れなきゃ、壊れてしまいそうだったから”なんだろ?」
埜楼の肩が揺れる。
「………やめてくれよ……ただでさえ、あいつは弱いやつなんだよ。心も、あの身も、全て。……冗談言うなよ。」
「……冗談なんかじゃないんだ。この鏡が"真実"を映してくれた。彼が体験した"あの時空"で紗也は消え、俺は死んだ。……弥生たちも四方幹部も流血し、立てなくなってた。」
ゆっくり、淡々と話していく唯人。柚木は、やり直す前の選択によって未来が徐々に変わってきている事を確信はないが、漠然と感じとる。
「っ…どうすれば、紗也を、みんなを助けられるんだ。」
涙目になりながら柚木に問う埜楼。周りを取り囲むように生えていた茨がだんだんと消えていく。
「……だから、お願いだ。信じてほしい。」
「……紗也…」
涙が混じった呟き。
柚木はそっと、彼の肩に手を置いた。
「今度は、君のその願いを……俺が叶える。絶対に」




