第一幕 巡り始める意思
柚木は目を開ける。
…ここは?
森と神殿が重なる西の地。
セラテルと共に辿り着いた再生の神殿___かつては鍵を得るための試練の地であったこの場所も、どこか様相を変えていた。
「……この空気、前とは違う」
そう呟いた柚木に、セラテルは微笑みながら答えた。
「君が“記憶を持った状態でやり直した”からだよ。
神殿もまた、君の願いに反応して、変化している」
廊下を抜けるたびに感じる、どこか温かい気配。
“拒絶”ではなく、“対話”のような気配があった。
「…埜楼に会いに行かないと。」
柚木が意を決して歩き始めるが、セラテルが踏み止まる。
「…柚木。今埜楼に会って、彼らとどう向き合うの?今のまま行っても説得出来ないし…そもそも、あの戦いで紗也を、唯人を失ってしまうことを覚えてるか分からないし。」
_____"覚えているか"。
その言葉に光が見えなくなってしまった。
やり直しているということは記憶も無かったことになってるんじゃないか。新たな不安が押し寄せる。
「…それは………俺が信じてもらえるよう最善を尽くす。どうすればいいか分かんないけど。でも、そうでもしないと助けられない!」
柚木の言葉に何か意味があるような笑み見せるセラテル。
「……うん。そうだね、僕も頑張るよ。思い出してくれるように。」
優しい大地に足をつけながら、ゆっくりと歩を進めていく。柱にまとわりついている蔦も、柚木を迎えるように風に少し靡いていた。
再び足を進めると、最初に二人の前に現れたのは、神殿内の祈りの間。
そこに立つのは、黒い布をまとった少年、唯人だった。
「来たね。……君がここに辿り着くのは、少し予感してた」
「唯人……。君には、話しておきたいことがある」
唯人は静かに微笑み、祭壇に置かれた“鏡”を手に取った。
「これを見てから話そうか。“鏡”は、君の記憶と願いを映すから」
柚木とセラテルは唯人の手にある鏡を覗き込む。
優しい光に包まれ映し出されたのは、"あのルシェルとの戦い"や、"鍵を集めている時の光景"。それぞれがフラッシュバックかのように鏡に映されていた。
「唯人は知ってたの…?」
唯人は鏡を見つめたまま、深刻な顔をする。
「…西から来るなんて普通じゃ考えられないよ。…俺たち、どれくらいこの神殿に居ると思ってるの?」
唯人はゆっくりと話を続けた。
「ここを訪れる人は他の地方の試練に乗り越えられなかったって言う人ばっかりでさ。でも、君は覚悟を決めた表情ををしてる。だから、何かを感じ取った人ってこと。」
そう言いながらその鏡を柚木に向ける。
「………あと、俺は前の"時空"では死んでたんでしょ?君は気遣って言わないでくれてたけど、俺にはお見通し___鏡が教えてくれた。」
柚木が鏡をのぞくと、そこに映ったのは__かつての埜楼。
紗也と笑い合う姿、そして崩れていく過去。
「埜楼は、もう壊れていた。俺が、何もできなかった」
「違うよ、柚木。壊れていたんじゃない。彼は、“自分の一部を守るために壊れたフリをした”んだ」
唯人の声は、やさしくも鋭い。
「だからこそ、君は今回、“壊れる前の埜楼”に会いに来たんでしょう? なら、信じてあげて」
柚木は、深く頷いた。
「……ありがとう。唯人の言葉で、少しだけ勇気が湧いた気がする」
唯人は鏡を柚木に差し出した。
「その心を持って、彼に向き合って。俺らは……見守るから」




