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花ヨ、終焉ヲ告ゲヨ。  作者: 黒雨 のゆ
第五章 光の仮面を被った神
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第四幕 星の遺言

「……ふふ、やっと……願いは叶う……」

壊れていく世界の中央で、ルシェルは微笑んだ。

ルシェルが柚木に向かって何度も繰り出す泡を難なく消していくりん。

「…篠宮りん。クロユリの組織をまとめている長なだけある。だが、堪忍しろ。もう終わるからな……」

その瞳は、どこか救われたように___。

そして、どこか、哀しげだった。

手を上にかざし、力を存分に溜める。


柚木がもう終わりだと思った。

地を這うように、黒いもやが世界を覆っていく。

「…柚木!!!!」

りんの声も遠くなっていき、気がつけば、そこは闇の中だった。

足元も見えず、声も届かない。

そんな中、唐突に____“映像”が浮かぶ。


それは、クロユリの者たちの過去だった。

_______


錆びた観覧車の下、足元には乾いた花びらが散っていた。

彼女は膝を抱え、小さな声で何度も繰り返す。

「どうして、あの日、呼んでくれなかったの…」

_____


祭りの夜。

赤い灯籠の下で、少女は目隠しをされたまま歩かされていた。

足元の石段は、ひどく冷たかった。

_____


雪原をひとり歩く背中。

振り返った時、そこには誰の足跡も続いていなかった。

それでも、彼は笑おうとした。

_____


波止場の柵にもたれ、少年少女は遠くの灯台を見ていた。

背後から聞こえる笑い声に、指先がわずかに震える。

「……いいの、私が溺れても」

_____


雨上がりの路地。

濡れた石畳に座り込み、少年は破れたスケッチブックを抱えた。

そこに描かれていたのは、名前を知らない笑顔だった。

_____


教室の隅。

ノートの端に、同じ言葉を百回以上も書き続ける少年がいた。

ページを閉じる時、その瞳はどこかを睨んでいた。

_____


ひび割れた温室。

枯れた鉢を両手で抱きしめ、少年は動かなかった。

花の根元には、乾いた涙の跡がこびりついている。

_____


路面電車の車窓に映る、自分じゃない笑顔。

少年は窓に触れ、指先を滑らせた。

その動きは、まるで別れの合図のようだった。

_____


市場の片隅、黒い傘を差したまま立ち尽くす影。

足元には紙袋からこぼれたリンゴが転がっていた。

「……また、置いていかれた」

_____


砂漠の夜、焚き火の明かりに照らされた横顔。

彼は小さな鈴を握りしめ、耳を塞いでいた。

「音なんて…聞きたくない」

_____


廃駅のホームで、少年は古びた切符を握り締めていた。

行き先は、もう存在しない駅名。

「それでも…行きたかった」

_____


空に浮かぶ町の端。

狐の尻尾を生やしたその子は柵を越えようとして、大人に腕を掴まれた。

「……飛べるはずなのに」

_____


教室の窓辺。

少年は消えかけたチョークの粉を握りしめた。

「もう少しだけ、名前を呼びたかった」

_____


廃墟の図書館。

古びた本を胸に抱え、窓の外の星を見上げる少年。

「星を信じたのに……救われなかった」

_____



そして世界は色を取り戻す。


廃墟のような教会。

そこに一人の少年が立つ。

篠宮りん___その姿は、今よりもずっと幼く、そして優しかった。


「ここは、君たちの居場所になる。__“同じでいられなくても、ここでは一緒にいられる”」


詠蓮、夜斗、甘虎、彼方。

そして紗也、埜楼、弥生、瑞稀、天綺、明、唯人、孤亜。そして見たことのないシルエットの人物。

“異端”とされた子どもたちが、手を繋ぎ始めた瞬間だった。


それは、確かに希望だった。

たとえ、それが哀しみの上に咲いた花でも。


_______


黒い靄がはれ、視界が現実へ戻る。

破壊されかけた神殿の中心。

柚木は、ただ立ち尽くしていた。

「紗也も、クロユリも、いない……」

あの手も声も、もう届かない。

「埜楼……」

彼は、ただ膝を抱えて沈んでいる。

柚木の声にも、誰の声にも応えない。

すべてを失い、心を壊してしまった彼を、誰もどうすることもできなかった。

そのとき。


「……柚木」

優しく、けれど確かな声が響いた。

振り返ると、セラテルがいた。

星の粒子をまとい、彼の横にそっと立っていた。

「君が選んだんだよ、柚木。君が“この旅を始めたい”と願った。君が“過去を変えたい”と願った。その結果がこれ」


柚木の足元が崩れる。

彼の目に映るのは____


詠蓮の涙、夜斗の祈り、甘虎の再生、彼方の願い。

弥生と瑞稀の誓い、天綺と明の絆、唯人と孤亜の慈悲深さ、埜楼と紗也の天運。


_______そして、紗也の喪失。


柚木は心の奥底で、確かに願っていた。

りんが一歩前に出る。

黒いフリージアが、彼の周囲だけ異様な静けさで揺れた。

「君は、“君自身”を憎んでいる。だから器になれた。____それでも」


 ルシェルの口元に、かすかな悲哀が宿る。

「……間に合わなかったな、篠宮りん」


光柱が増え、空がひっくり返る。

世界が____終わりの姿を取り始めた。


足場が崩れる音の中、柚木は立っていた。

視界の端で、紗也のいない空白と、座り込む埜楼、血を流し倒れている四方幹部と副官。

胸の奥が、裂けていた。


(もう一度……やり直せるなら)

喉の奥から、名前が零れた。

「セラテル」

星の粒子をはらんだ光が、柚木の横に立つ。

あどけなさと老成が同居する瞳が、まっすぐ彼を見る。

「選ぶのは、いつだって君だよ、柚木。ここで終わらせるか、___時間そのものを折り返すか」

りんが振り向かず、ただ言う。

「僕は、どちらでも君の味方だ」

柚木は拳を握る。涙が、熱い。

「……この世界を、終わらせない。紗也を、埜楼を、クロユリを____全部、守りたい」

セラテルが微笑む。

「じゃあ、言って」

崩落音が遠のく。星の音だけが残る。

柚木は、空へ叫んだ。


「____もう一度、やり直させてくれ!」


星が走り、空間が反転する。

鍵の光が逆流し、花弁が巻き戻る。音も色も、すべてが“前”へ帰っていく。

視界が白に溶ける直前、りんの横顔だけがくっきりと残った。

その口が、確かに言った。

「今度は、間に合わせよう」

星が流れ、空間が反転する。

世界が砕け、逆再生を始めた。

星が流れ、時が巻き戻っていく。

覚悟を決めた表情をする柚木はポツリと呟いた。

「…ただの悪じゃなかった…誤解してたみたいだ。」

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