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花ヨ、終焉ヲ告ゲヨ。  作者: 黒雨 のゆ
第五章 光の仮面を被った神
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第二幕 黒い者と黒い花

ルシェルが暴走を始めた。

空間をどんどん裂いていく。

その裂け目からは星屑や、海の香り、蔦や火花が押し寄せてくる。


「ふははははは!!どうだ。まんまと手のひらで踊らされていた気分は!!!」

ルシェルが追い打ちをかけるように柚木に問いかける。

(…さっきの違和感は合ってたんだ。……何やってんだ。俺は……)

膝から崩れ落ちる柚木にセラテルは必死に語りかける。

「柚木!しっかりして!!」

二人の目の前に、黒い花弁が落ちてくる。それと同時に黒い花々が、風を割いて進んでくる。

_______クロユリだ。

その中心にいる四方幹部の姿は、まるで世界を背負っているみたいだった。

どうしてだろう。怖いのに、涙が出そうだった。

その四人を前に、柚木に向かってくる副官たちは誰も声を出さないのに、存在だけで空気が震える。

その姿は、まるで闇が形を持って歩いてくるみたいで。

でも__怖いのに、どこか綺麗だった。

あの人たちは“敵”なのに、どこか壊れかけた祈りのようにも見えた。

詠蓮、夜斗、甘虎、彼方。続いて弥生、瑞稀、天綺、明、唯人、埜楼、孤亜、紗也。

黒い外套が弧を描き、幾つもの殺気が柚木を狙う。

柚木は、目を閉じる。

(……俺を斬れ。鍵を渡したのは俺だ)


刃風が頬を撫で____通り過ぎた。


轟音。柚木のすぐ背後、ルシェルの喉元へ、詠蓮の星鎖が突き刺さる。

夜斗の掌が潮を呼び、半月形の水壁が立ち上がって闇の波を受け流す。

甘虎の指先から、薄青の棘蔓がうねり、黒渦を縫い止める。

彼方の翼飾りが熱を纏い、上空の裂け目へ矢のような炎柱を放つ。


「狙いは、お前一人だよ」

孤亜が踵で滑り込み、ルシェルの影へ手印を切る。

「柚木は後ろ下がって」

瑞稀の蜘蛛糸が柚木の肩をとらえ、するりと安全圏へ引き戻す。


ルシェルが初めて、笑みを崩した。

「……やっぱり、気づいていたのかい」

「最初から怪しかった。秩序の音程が半音、ずれてる」

詠蓮が短く吐き捨て、星紋の円環を重ねる。

「鍵を渡さねば見えない(レイヤー)もある。___だから“渡させた上で斬る”。それが私たちの答え」


「…間違えちゃったね、柚木。おれたちはミカロスに渡すと思ってたんだけど。伝わらなかったか。」

「…まぁ、言ってなかったし。しょうがないよ。」

天綺と明がルシェルから守るように柚木の前に立ち慰めを入れる。

「…ミカロスって何だよ…。俺は元の世界に戻してくれるってルシェルを信じて…集めてたのに。」

すると、唯人が柚木の隣にしゃがみ込み、簡潔に話した。

「ルシェルは、()()()()()()。ミカロスは、()()()()()()。あいつは、"正しい形"に戻すことが全てだと思ってる。ミカロスは、"間違ったままでもいい"って受け入れてくれる。そんな存在。」


「俺たちは、この世界を守っていた【()()()()】という神を再誕させるために鍵を守りつつ、最後の一つの手がかりを探していた。でもどうしても五つ目が見つからなくて。君が持ってた黒曜石が鍵だったんだね。俺たちとちゃんと話し合えばこんなことにならなかった。ごめんね。」

天綺がクロユリの目的を淡々と話していく。

その間も、他のクロユリたちは柚木に触れさせないよう、必死に立ち向かう。


すると、闇が唸り、神殿ごと夜が反転する。

彼の背後に黒い光が渦を巻き始める。

黒き神ミカロスの“器”として、ルシェルが笑った。


「さあ、“再誕”の時だよ」


空間が歪む一方でルシェルの攻撃は加速していく__


「……紗也?」

声が震えた。

埜楼が、群衆の中でたった一人、まるで夢でも見ているかのような顔で紗也を見つめていた。

紗也もまた、微笑んで応える。

「埜楼……元気そうで、よかった」

ふたりの間には、言葉にできない思い出と痛みが流れていた。

けれど、それは長く続かなかった。

突如、空間が砕けるような音が響き、ルシェルの背後から異形の存在が現れた。


「行かせないッ!」

「今、感動の再会してるじゃん!!!」

弥生の雷が縦に走り、孤亜は狐に変幻し鋭い爪でルシェルに立ち向かう。

「ああああアァァァ――!」


紗也の身体が、まるで光の粒となって霧散していく。

「し、や……うそ…やめろッ!」

埜楼が駆け出す。しかし、間に合わない。

彼の目の前で、紗也は静かに笑いながら消えていった。

「もう……心配しないで。埜楼は、優しいままでいてね」

声も、残像も、何もかもが溶けていく。

埜楼は膝をつき、目を見開いたまま、何も言わなくなった。

その瞳に映るのは、光も希望もない__ただ、闇。

静寂。世界から音が抜ける。

埜楼の瞳に、闇が灯る。

「ルシェルゥゥゥッ!」

埜楼は小さな剣を手に持ち黒渦へ突っ込む。


「……これが、君たちの“願い”の果てだ」

ルシェルの影が振り下ろす。重い、世界ごと叩く一撃__。

ルシェルが淡く笑う。

「___埜楼!」

唯人が割り込んだ。外套をはね、腕を広げる。

「大事な人を守れと……言われたんだ」

空気が潰れ、石がはぜ、血の匂いが立つ。

唯人は埜楼の前で崩れ落ちた。目は開いている。だが四肢は痺れ、声が出ない。

「……ごめんね、埜楼。」

「唯人!!!!」

弥生が駆け寄るが、唯人は、返事をしない。

「おい、返事しろよ。おい!唯人!!!死なれちゃ困るんだよ!!」

詠蓮は静かに呟く。だが、目線はルシェル一点だ。

「……唯人。貴方はどんだけ優しいの。」

夜斗は、ルシェルに水龍を浴びせながらも辛い表情をしていた。

「…………命が消える時まで美男子でどうする。」


埜楼はその場に座り込む。手は震え、視界は滲む。

彼の時間だけが、止まった。

黒渦が、笑う。

「ほら、壊れていく。君たちが、君が抱いた“願い”のせいで」

その瞳には、怒りでも憎しみでもない__深い、深い絶望が滲んでいた。

天綺の予兆の光輪が地を覆い、明の結界札が次々と打ち込まれる。

孤亜は短杖を肩で回し、呼吸を整えて視線だけで戦場を編む。

そして、それに、対抗するかのように強化されていくルシェルの黒渦。


「...りんは?」弥生が問う。

「呼んでる。来る」瑞稀が短く答える。

「それまで持たせるか。」弥生と瑞稀は顔を合わせる。

が、そう簡単にはいかなかった。

瑞稀の糸が一束、影に噛み切られ、肩口から赤が散った。

弥生の雷が逆流して痺れが脚を奪う。

天綺の光輪が淡くちぎれ、明の護符が焦げて灰となる。

孤亜の幻火は、闇に触れて色を失い、副官たちは立たなくなってしまった。

柚木は歯を噛みしめ、前へ出る。

「俺のせいだって言うなら、俺が終わらせる!」

足元にネモフィラの幻影が散り、彼の背に風が入る。

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