第三幕 偽りの理想、壊れる心
紗也に出会ってから柚木はどこか落ち着かない気持ちを抱えていた。
あの幻影の中で出会った少年__紗也。
確かに"初めて会った"はずなのに、彼の言葉のひとつひとつが、胸に深く残っている。
「悲しみや痛みもある。でもね_それを一緒に抱えてくれる人も、きっといるよ」
まるで、自分の未来を見透かしたかのようだった。
誰かが柚木の肩を叩く。叩かれた方を見ると人差し指で、柚木の頬をつつき神秘的な笑みを浮かべる孤亜がいた。
「…やっと気づいたあ。ほら、早く行かないと彼方くんの特別授業始まっちゃうよ〜」
「…特別授業?」
孤亜は眉を顰め、困った表情を見せる。
「…あ、あれ?この感じ、言われてない感じかぁ。じゃあ孤亜が教えてあげよ〜う。この学苑はね、彼方くんが"さっきの空間を越えた者たちに指導する特別授業があるんだあ。」
孤亜は柚木の手を引き、教室へ駆けていく。
教室のドアを開けると授業が始まっていた。
「…孤亜。遅いよ。」
「んへへ、ごめんね。だってさあ、この子ずーっとボーッとしててボクがトントン叩いても気づいてくれなかったんだもん。」
頬を膨らませ柚木を売る光景に彼方は呆れた顔を見せる。
「…ごめん。気づかなくて。」
柚木が謝ると孤亜はへへっ。と笑う。
「孤亜。柚木を連れてきてくれてありがとう。…柚木は席について。孤亜は、さっきの続き__お願いね。」
はあい。と言い姿を消した孤亜。柚木は空いている席に座り特別授業を受ける。その授業内容はあまりにも格別で、奥深しいものだった。
再生とは何か。傷とは何か。
彼方は淡々と語る。けれどその語り口には、どこか熱がこもっていた。
「再生はね、壊れてからじゃないと始まらない。だから俺は……壊れていいって思ってる。過去の自分を壊して、そして未来の自分に期待する。でも、期待って言えるほど都合の良い単純なものじゃない。未来の自分に期待すればするほど重荷になり足枷になっていく。____だから崩壊させてこそ新しく生まれ変わる。」
教室の静けさの中で、彼方の言葉が響く。
「人の心だって、そう。最初から綺麗なままなんて、無理だから。壊れて、ぐちゃぐちゃになって、それでもなお、誰かが拾い上げてくれる___そういう世界であってほしい。そう、思うんだよ」
柚木は、思わず彼方を見つめてしまった。
その目はどこまでも真っ直ぐで、まるで……誰かを救おうと、必死に叫んでいるようだった。
彼方が口を開こうとしたとき、終わりを告げる鐘がなる。
「___とりあえず少し休憩を入れようか。20分ぐらい休憩して。」
彼方は教室を出て姿を消し、入れ替わるように孤亜が入ってきた。
「みんな〜用紙配るから、今の彼方くんの授業の感想書いてね〜」
孤亜は一人ずつ感想用紙を配っていく。
「…あ。これはただ次回に活かすためのアンケートみたいな感じだから、重く考えないでね〜普通に感想を簡潔に書いてくれればいいから」
柚木はもらった紙に目を通す。そこには至ってシンプルに『今回の朱央彼方の特別授業はどうでしたか』と書いてあった。他の生徒はスラスラと書いていく。
柚木もしばらく考えた後、ペンを走らせた。
『壊れた心を責めないでくれる彼方の言葉にすごく感動した。壊れてもいい。その壊れた後に前へ進む勇気を大切にしたいと思った。』
と回答し、孤亜に提出した。
「うん、ありがとう。じゃあ次の授業が始まるまでゆっくりしててね〜」
そして席に戻り、次の授業の準備を始めた。




