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花ヨ、終焉ヲ告ゲヨ。  作者: 黒雨 のゆ
第四章 空に還る約束
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第二幕 幻影の少年

「…目を閉じて。」

柚木は彼方のいう通り目を閉じる。閉じたことを確認した彼方が孤亜に目線を送ると、指を鳴らした。

目を閉じた瞬間、空気が反転するような圧があった。

音が消え、足元の感覚がふっと消える。

次に感じたのは、紙の擦れるような音と、遠くで鐘が鳴るような静寂。

ゆっくり目を開けると、そこには——果ての見えない本の海があった。


「ここは?」

あたりには柚木しかいないのに、どこからか声がする。

空も地もない。ただ、どこまでも広がる図書館のような空間。

棚の間を漂う無数の本たちが、勝手にページをめくっている。

風はないのに、何かに導かれているかのように。

近づくと、一冊の本がぱらりと開いた。

ページには知らない誰かの記憶__小さな笑顔、夜に咲いた花、誰かを呼ぶ声__が浮かんでは消えていく。

その全てが、光の粒となって空気に溶けていった。

「……ここが、試練?」

その場所にしては、静かすぎる。

歩き出してすぐ、柚木はひとりの少年を見つけた。

薄い桃色の髪に整った顔立ち。どこか影を落とすような瞳。…そして、クロユリの礼装。


少年は棚の間に座り、分厚い本を膝に開いたまま、静かにページをなぞっていた。

「ここは、どこ?」

ゆっくりとその少年に言葉をかける。

「“心の幻影に触れる"ところだよ。」

柚木の方を見ず、本に目を通していた。

「……あの、君は……?」

声をかけると、少年はゆっくりと顔を上げた。

「……初めて見る顔。もしかして、試練の人?」

「え、あ、うん……。君は?」

「ぼくは真中 紗也(まなか しや)ここにいるのはずっと前から。あなたは?」

「柚木……來那」

名前を口にすると、なぜか少年_紗也は微かに目を見開いた。


けれど、それ以上の反応は見せず、また視線を本へと戻す。

「來那、か。どこか、懐かしい響きだね……」

「もしかして、前に……」

「ううん。あなたとは初めまして。でも……なんとなく、似てる人を知ってるだけ」

その言葉に、柚木は息を呑んだ。

彼の声には、どこか“別れ”の重さが滲んでいた。

「…それって、埜楼のこと?」

柚木が問うと目を見開く。まるで、予想もしてなかったかのように。

「知ってるんだね。ぼくと埜楼のこと。」

「…様子を見てきてって言われたから。」

そっか。とでも言うかのような表情の紗也はとても儚く、今にでも消えてしまいそうだった。

「ねえ、柚木くん。どうして進もうと思ったの?」

不意に、紗也が問いかける。

「え?」

「君がこの試練を超えて、また前に進もうとしてる理由。__教えて?」

柚木は、少しだけ考え込んだ。

そして、ゆっくりと口を開いた。

「……現実に戻りたい。それだけ。それだけだと思ってた。でも、それだけじゃない。今は信じてみたいんだ。誰かを。自分の気持ちを。……それだけで十分かどうか、確かめたくて」

紗也は、その言葉を聞くと、ふっと微笑んだ。

「__なら、きっと進めるよ。あなたは、もう嘘をついてない」

その瞬間、図書館に微かな風が吹いた。

宙に浮かんでいた本たちが、まるで命を得たかのようにページを閉じて、光の粒となって空間を満たしていく。

「……え?」

「君の心はもう、閉じていない。」

紗也が静かに立ち上がり、彼のほうへ近づいてくる。

「これからきっと、色々なことを知る。悲しみや痛みもある。でもね____それを一緒に抱えてくれる人も、きっといるよ」

まるで未来を見てきた人のような、優しい声だった。

「じゃあね。」

小さく別れの言葉を交わす。

そして____世界が反転する。


光の粒が舞い、音もなく空間が揺れ、柚木の視界が真っ白に染まった。

気がつくと、彼は学苑のホールに立っていた。

目の前には、彼方が静かに微笑んでいる。

「……戻ってきたか。柚木。」

柚木は数秒だけ息を飲み、それからぎこちなく頷いた。

「ああ……ただいま」

遠くの柱の影に、あのときの少年___紗也の姿が一瞬だけ見えた気がした。

彼はこちらを見て、小さく微笑んでいた。

「…紗也…?」

柚木が小さく呟く。

けれど次の瞬間には、もう誰もいなかった。

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