最終幕 再び、共に咲く
柚木が甘虎に着いていくと、そこにはすでに見慣れた二人の顔があった。
甘虎はゆっくりと唯人と埜楼の前に立つ。
「おまたせ。待たせちゃったかな。」
「いや、気にしないで。」
唯人が微笑みながらそう答える。
「……終わった、のかな」
柚木の声はどこか震えていた。心に残るものはまだ消えない。だが、それでも歩を進める勇気を得たのは確かだった。
「うん。君はちゃんと選んだ」
甘虎がにこりと笑う。その眼差しは優しく、それでいて試練を終えた者を祝福するように澄んでいた。
「これで、一段と強くなったんじゃない?」
唯人が優しくこたえる。
その時、埜楼が口を開いた。
彼は神殿の壁に寄りかかり、腕を組んだまま視線を宙に彷徨わせていたが、ふと柚木に向き直る。
「なぁ……次は南だろ」
「うん、そう聞いてる」
柚木が頷くと、埜楼は少しだけ目を伏せた。その仕草に、いつもの挑発的な色はなかった。
「……そこに、紗也がいるはずだ」
「紗也?」
思わず聞き返す柚木に、埜楼は小さく息を吐く。
「俺の……幼馴染だよ。昔、一緒に馬鹿みたいに空を見上げて過ごした。だけど、違う地方に向かった。自分で決めたことだけど…でも…」
そこで言葉が途切れる。掠れた声が残るだけで、続きを語ろうとしない。
柚木は静かに問いかけた。
「今は何してるの?」
「……知らねぇよ。俺が最後に見た時のままなら、何かを探してる顔だった。記憶をなくしてたのか、ただ思い出したくなかったのか……わからないけど。」
埜楼の声は、いつになく弱々しかった。まるで過去を怖れるように言葉を選んでいる。
柚木はその姿をじっと見つめ、ゆっくりと頷いた。
「……会いたいんだね」
「……っ!」
埜楼は驚いたように目を見開き、それからすぐに視線を逸らす。
「別に……会いたいわけじゃねぇ。ただ……」
拳を握り、声を押し殺すように続ける。
「様子を見てきてほしい。それだけでいい」
「埜楼……」
柚木は胸の奥に熱いものを覚えた。再生の神殿で共に過ごした時間が、確かに埜楼の中にも何かを芽生えさせたのだと。
甘虎が穏やかに言葉を添える。
「……それもまた“再生”のひとつの形なのかもしれないね」
埜楼は答えず、ただ黙って天井から差し込む光を見上げた。
やがて、神殿の扉が開き、強い風が流れ込んでくる。
空を渡る風の匂い──それは新たな旅立ちの合図のように感じられた。
「気をつけてね。」
唯人が声をかける。
「……うん」
柚木は深く頷き、甘虎が穏やかに微笑む。
「踏み躙られても、もがいて目的を果たせ。この地にある大地のように__そして、今までの軌跡を胸に。」
「……!」
それは、この旅で得られた新たな仲間の言葉だった。再生の神殿で柚木たちは、自分自身の傷と向き合い、そして乗り越えた。それはほんの小さな一歩にすぎないかもしれない。けれどその足元には、たしかに“希望”の芽が芽吹いていた。
「応援してる。」
「おれたちはここに居る。」
唯人は一歩後ろから柚木に声をかけ、埜楼は拳をつくり柚木左胸を軽く叩く。
「…ありがとう。」
次に向かうのは、南の地方。
____旅は、まだ終わらない。
柚木はゆっくりと目を閉じると、天井から降り注ぐ金色の光が、花びらのように舞い落ちる。肌に触れた瞬間、百合とハーブの香りが漂い、胸の奥が温かくなった。次に目を開けたとき、風が吹き抜ける高所に立っていた。




