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花ヨ、終焉ヲ告ゲヨ。  作者: 黒雨 のゆ
第三章 赦しが咲く時
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第四幕 俺が俺を赦すために

扉を越えた瞬間、柚木の視界は白に覆われた。

音も色も匂いもない。そこは"世界"というよりも、ただの空白だった。

それなのに、足を踏みしめる感触だけは確かに存在している。歩けば、波紋のように淡い光が広がり、やがて景色となっていった。


「___ここは」

そこは見覚えのある教室だった。

窓の外から差す昼下がりの光。ざわめく声。机の上には開きっぱなしのノート。

懐かしさよりも、胸を締めつける痛みが先に来る。柚木は瞬時に悟った。

「これは、この世界に来る“前”の記憶だ……俺の、過去……」

囁いた声に、返事があった。

声のする方を向くと、黒板の前にもうひとりの自分が立っていた。

『ふはっ、君、面白いね』

____笑っている。けれど、その笑顔はどこまでも薄っぺらで、作り物の仮面のようだった。


『どうして君は、そうやって何も言わずに笑っているの?』


虚像の柚木は問いかける。

その声は柔らかいのに、容赦なく胸を抉った。


『誰かの顔色ばかり見て、期待に応えて、黙っていれば傷つかないと思った?そうやって生き延びたつもりで、本当は“死んでいた”んじゃないの?』


心臓が跳ねる。息が詰まる。

言い返したくても、喉が動かない。否定したいのに、できなかった。


『____もうとっくに、柚木來那は死んでる。』


柚木は知っていた。これは誰でもない、過去の自分。最も壊れ、最も弱かった自分の姿なのだ。

「……そうだよ」

やっとの思いで声を絞り出す。

虚像の自分が微笑む。その笑顔は冷たかった。


『だから君は、誰にも必要とされなかった。

透明で、空っぽで、そこにいるのに“いない者”。君なんか、いなくても同じだったんだ』


頭の奥で、ガラスが砕けるような音が響く。

「…うぅ、あっ…ぐっ…」

視界が滲む。あの日々の孤独が、全身に蘇る。

そして立っていられないほどの苦痛が頭の中を壊していく。


『君はそこに在った、ただの空間となって自分自身を無くし、自分の存在をも消した。そうでしょ?』


____虚像の自分の言う通りだった。

友達の輪にいるはずなのに、心だけはどこにもいなかった。

家族に声をかけられても、ただ相槌を打つだけ。

自分を殺すようにして、毎日を過ごしていた。

それが、過去の自分の真実。

足が震えた。今にも崩れ落ちそうになる。

でも、そのとき心の奥で、別の声が響いた。

___違う、と。

柚木は顔を上げた。

虚像の自分と、真正面から向き合う。

「……俺は、あの時の自分から……抜け出したいんだ」

声が震えていた。でも、確かに言葉になっていた。

虚像が目を細める。


『抜け出したい? それで、誰かが君を必要としてくれると思うの?』


「思うんじゃない。……俺がそう願うんだ」

「誰かのためじゃなくて、俺自身が……生きたいから」

胸の奥から、熱いものがせり上がる。

初めて、自分の声で、自分の言葉を叫んだ気がした。


すると、虚像の自分が、ゆっくりと崩れ始めた。

ガラス細工のようにひび割れ、光の粒となって舞い散っていく。

最後に残ったのは___わずかな、微笑み。

それは嘲笑ではなく、確かに“救われた笑顔”だった。


同時に、光が柚木を包み込む。

温かい。痛みも孤独も、すべてが溶けていくようだった。

それは“再生”の光。壊れたまま放置されていた心を、そっと抱きしめてくれる温もりだった。

「……あぁ……」

涙が、自然と流れた。

けれどそれは苦しみの涙ではなく、確かに未来へ歩むための涙だった。

次の瞬間、視界が暗転した。


______目を開けると、そこは再び神殿の試練の間だった。

重い扉の向こう側。待っていた仲間たちが一斉にこちらを振り向く。


「柚木!」

最初に声をあげたのは唯人だった。その表情に安堵が広がる。

埜楼も静かに息をつき、短く頷く。

「……よく、戻ってきてくれたね」

甘虎が歩み寄る。その目は優しかった。

ふらふらで立つことがやっとな自分の足を必死に動かし、3人の元へ向かう。

3人に抱えられた柚木は言葉を探したけれど、胸の奥が熱くて何も言えなかった。

ただ、頬を伝う涙がすべてを物語っていた。


柚木は唯人と埜楼に支えられながらゆっくりと石畳を歩いていた。

だが、だんだんと視界がぼやけていき、意識が遠のいていく。

その柚木の重みを感じたのか、唯人は顔を覗かせる。

「…治療室行こう。少し横にならせたほうがいい。」

唯人の提案を受けそのまま治療室へ向かった。

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