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花ヨ、終焉ヲ告ゲヨ。  作者: 黒雨 のゆ
第二章 祈りは海を越えて
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最終幕 風に託した願い

仮想空間が崩壊し、再び学園の屋上に風が吹き抜ける。

高く広がる空。あの不穏な風の香りはなく、濁りのない透き通った風が吹き抜けている。その下で、夜斗が静かに言った。

「…まさか君のような者に…」

「…夜斗…。」

夜斗の背後では、天綺と明が控えていた。

「ごめん。二人には酷いことをした。」

二人の目を見て謝罪する夜斗に二人は微笑む。

「夜斗が戻って良かった。俺たちは今の夜斗が好きだから戻ってくれて本当によかった。」

「ったく、世話の焼ける四方幹部だ。あの優しい詠蓮みたいになって欲しいんだけど。」

そういう明の表情は凄く柔らかかった。夜斗は柚木の方を振り返りはにかんだ。

「…君の旅路が、僕のような間違いを繰り返さないよう祈っている。」


柚木は黙って頷いた。

「…柚木。お前は一体何者なんだ?」

「俺はただ、正しただけだよ。」

「…ふっ、面白いな。」

天綺はまっすぐまっすぐ前を見据えながら、静かに言う。

「柚木、君がいなかったら、俺はずっと…生きてるだけだった。あの時言っていた”居場所がある”って言葉。きっと夜斗に向かって言ったことだろうけど、おれ、改めて思った。”生きてるだけ”でもいいんだって。__だって、おれには、”居ていい場所”があるから。」

明の言葉に、天綺はほんの一瞬だけ目を伏せる。その視線の行方は、誰にも分からなかった。

夜斗が静かに口を開く。


「…詠蓮から話は聞いている。この鍵を渡すべき者が現れたと。もう答えはわかっている。君のことだって。」

夜斗から鍵が渡される。

透明の水晶のようなそれは、ほんのわずかに海の青を宿していた。

「…それと。」

夜斗は一つの小さなノートを柚木に手渡した。

中にはびっしりと手書きの言葉が繰り返されている。

「わたし……笑っていい……の?」

それは、夜斗の妹が最期に遺した言葉だった。

夜斗は何度も、何度も、その一言を自分に言い聞かせるように書き写していた。

「笑っていいんだ。笑うことを許されない人なんて居ない。夜斗、君だってそうだ。」

「……柚木。僕は、僕たちはもう囚われない。この広大な海のように。」

遠くの水平線を眺めながら呟いた。その表情は幼い夜斗が少女を見ていた、あの優しい目をしていた。


「次に地方に行く前に見せたいものがある。」

夜斗に言われ、ついて行く柚木。

夜斗が誰にも見せようとしなかった書庫の奥。

一見ただの本棚かと思っていたが夜斗が一冊の本を手に取り、あるページをめくって本棚にかざす。その瞬間ゆっくりと本棚が動き始め、ある一室が現れた。

隠し扉のようになっていたその場所は、埃一つかぶっていなかった。

「俺たちの初めて来たな。まさかここが開くなんて。」

「天綺たちも初めてきたの?」

「うん、普通に本棚だと思ってた。」

先を進む夜斗を見ると他の本とは違った一冊の日記を手に取る。普段よりも丁重に扱う夜斗の姿に、緊張が走る。

そして柚木は、ある記憶の断片を渡される。


「これは、最も古い記録。東地方の、というよりももっと前の。”イノ”が遺した記録だ。僕たち()()()()()()()()()()()になった人。」

天綺と明は肩を撫で下ろした。

「ここにあったんだ。イノの記録。夜斗が持っているだろうとは思ってたけどここにいたんだ……」

柚木はゆっくりとページをめくっていく。あるページで手が止まった。

【違うままで、いいんだよ】

そのページだけ文字が少し滲んでいた。きっと孤独だった心に唯一寄り添ってくれた言葉だったのだろう。そして、ゆっくりと明が口を開く。

「イノがいなきゃ、おれたちは絶えていた。イノが”居場所”をくれた。」


優しい光がカーテンの隙間から差し込む。小さな窓には優しい風がその一室の重い空気を運んでいった。

「僕、クロユリの四方幹部、天綺や明たち、副官はそれぞれ自分たちの役目を担っている。クロユリはある目的を果たすためそれぞれの地方を総括している。警戒されるのも敵対されるのも無理はない。__柚木、君は北地方と東地方の鍵を手に入れた。この結果が全てを物語っている。」

優しい光がカーテンの隙間から差し込む。小さな窓には優しい風がその一室の重い空気を運んでいった。

____________


門に向かう途中、誰かが柚木たちを呼び止める。

「___柚木!」

振り返ると、朔が息を切らしながら走って来た。

「良かった。最後に会えて。これだけは言いたくて。」

朔は柚木の隣にいる夜斗たちに一瞬怯んだ表情を見せたが、柚木をまっすぐ見つめる。

「……柚木。僕は君に勇気をもらった。だから僕はもう落ちこぼれなんて言われないように変わるよ。劣等生じゃなくて優等生になれるように。____そして、君がいた世界に戻れるよう僕はここから応援してる」

そして背中を優しく叩く。その光景に夜斗は胸を撫で下ろした。

「秩序に囲われていながらもいい友達がいたみたいで良かった。」

そして授業開始の鐘がなり、朔は校舎へと戻っていった。

____________


柚木たちは東の空と海に別れを告げる。

「気をつけてね。」

天綺が背中を押す。

学園の地下には、まだ語られぬ”古代の装置”と、封印された記憶が眠っている。

それが未来にどう作用するのかは、誰にもわからない。

ただ、夜斗は確かに__かつて、”()()()()”と交わした約束を今も守ろうとしていた。

「どんなに世界が変わっても、君だけは”違うまま”でいてくれ。」

海風に靡く3人のマントがふわりと踊る。


そして海面のようにゆらめく蒼い光が、足元から広がっていく。耳の奥で波の残響が響き、全身が水に沈むような感覚が押し寄せる。目を開けたとき、そこは石造りの神殿だった。










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